ステップ
「それは荒木さんがいろいろアドバイスをくださった結果ですよ。俺なんてただの書き物を大ごとになるなんて思いもしなかったんですから。」
「そんな謙遜はいらないですよ。社長もいるので、話がしたいといっているのでいいですか?」
荒木の首の傾げ方に思ってしまった。三枝は大きくうなずいた。最初の駆け出しも手助けをしてくれる人でもある。大きな会議室に入っても2人しかいないのだ。広すぎて困るといってしまうのだ。荒木は席を立って出て行った。社長を呼びに行くのだろう。此処の社長室はドアがないことで毎回来る人に不思議がられるのだとつぶやいていた。テナントを借りていてどうなるとわからないからといってドアを取り付けなかったのだ。せめて、会議室だけはと思ったのだ。それでもそれが功を奏したと社長は思ったといっていた。荒木とともに現れた社長は何処かラフな格好に映る。もっぱらその恰好を好むのだ。高価な服を買ったとしてもしょうがないといった。大量生産の服に高価そうなジャケットを添えている。
「社長、お久しぶりです。」
「弘樹君こそ、忙しいのにごめんな。」
「いえ、忙しいということはないですよ。とりあえずは終えた感じですから。」
社長は少し笑いながら座った。時々、社長は伊達メガネをかけるのだが、その伊達メガネの値段を問うときがあった。そしたら誇らしげに2000円だとつぶやいた。今の時期に金を使いすぎるのはおこがましいといったのだ。
「そうか、なら受けてくれるかな。」
「なんですか?」
「資産家自殺の事件だよ。高校生の時に弘樹君は自殺じゃないといった事件だ。警察は自殺で終わらせているけど、俺も納得しないところがあってね。ジャーナリストになったつもりでやってほしいんだ。作家としてもいい経験になると思う。荒木君にも相談は済ませてある。あとは弘樹君次第だ。休暇と思ってね。」
社長が言ったとのは走り続けた三枝にわずかではあるが、休憩を兼ねてのジャーナリストはどうだといってきたのだ。三枝は思った。小説家として休憩を取ってしまってはファンの人が待ちわびる時が長すぎるのではないかと思ってしまった。それはうぬぼれかもしれないと思ったりもする自分もいる。どうなのだろうか。
「先生は迷ってらしゃるのかもしれないですね。作家にとって休憩というのは名ばかりだと思っていいんです。次の作品を作るための研究だと思ってください。そう思ったから了承したんです。」
荒木の必死な言葉を目で眺めた。