贖罪なき罪人
「それじゃ子供の時はお父さんに恨みをもっていたんですか?」
橋倉は事情を知らないこともあってか知りたいとばかりに机の上に乗り出すようにして聞いた。詩織は少しおじけづいた様子ではあったものの落ち着いた感じで言った。
「そうです。父はアルコールにおぼれ、ギャンブルにもおぼれて、負けてかえって来たら暴力をふるうことを繰り返していましたから。それに加えて、母は家計のために水商売をしていたようですが、そこで出会った男性と関係を作っては家に戻ってくることはなかったんです。別れたとかいう度にもかえって来ましたからね。・・・ほとんどの日々はお兄ちゃんと過ごしていました。そこで出会ったんです明子さんと。」
詩織はそういうという言葉がなくなってしまって黙り込んでしまった。卓はすぐに詩織の顔を見てそっと肩を抱いた。
「明子さんは君たちのことを知ったから食事を用意したんでしょう。養護施設へ行くほどですから見過ごせなかったとしか言えないです。」
「この事件も全て高橋家が起こしたといってもいいんですよね、先生。」
「聞くとそうなるでしょうが、裁判では切り取られる可能性もあります。裁判所も世間からずれた連中の崩壊の場になっていますから。」
情状酌量の余地があるように感じてしまうがどうなってしまうかわからないのだ。三枝もしょせん、法律家でもないからだ。卓は冷め切ったお茶を飲み干した。それを見た詩織が新たなお茶を注いだ。熱く湯気の上がっている姿は何処か彼らの事件を起こしたのろしに見えてしまった。
「俺は明子さんのことも今回のことも貴方に解決してもらいたかったんです。高校の時に貴方が書いた本に出合ったんです。その時は驚きました。まるで見ているかのような感じで・・・。続編を読むと明るい未来と現実を見せられているようになったんです。」
続編には現実の痛さを描いたのだ。うまくいかないのはわかっているが少しでも変わろうとしている様子も描きたかったのだ。卓と詩織は椅子に座ったまま、固まっているようでもあった。緊張しているのもわかるのは痛々しいと思うしかないのかとも思ってしまった。三枝にとっては高校の時に追っただけになってしまう。三枝が撮った写真がコンテストに上がったのだ。それは2人が映った写真であった。彼らは驚いたはずだ。自分たちが映っているうえに撮影者がうやむやになっているのだから。
「貴方のおかげですっきりしました。これから警察に向かいます。高橋製薬に置き土産を置いていきます。父の人生をぐちゃぐちゃしたうえに殺した罪をかぶってもらうんです。」
卓はそういうと詩織を連れてドアの前に行き、2人に一礼をして去っていった。




