伝える告げる継ぐ
その子に食らったことはコンテスト側から高校に在籍中の応募はできないということだった。
「で、そいつはどうなったんだ?」
「写真部に最後まで在籍していたけど、周りはよく思っていなかったよな。自分の撮った写真を出さずに人を勝手に使って出したとすればな。だから写真部に顔を出すことは以前より減ったよ。」
コンテストに提出した子はカメラマンを目指していたのだ。それがかなわないと決まったわけではなかったので強く言うことはなかった。遠巻きに嫌がるような態度は露骨になっただけだ。だが、周りも事情を知っているので相手にしなかったのだ。
「それで卒業式の時に謝りに来たかな。親父が言ったんだよ。カメラマンを目指すのは悪いことじゃないが、自分の撮った写真を出して目指すのが正しい生き方だって。相手のものを使ってしまって名誉を受けたところで罪悪感にさいなまれるだけの人生になってほしくなかったって。」
「罪悪感か。人の借り物を借りたまま、いうことなかったら俺も嫌だろうな。」
「そいつの親も意図が分かったから泣く泣く芸術系の大学に浪人して入ってコンテストに出して佳作どまりかな。最優秀賞まではいかなかったし。どうなっているんだろうな。」
カメラマンといってもフリーになるか会社勤めになるかで環境は違ってくるものなのだ。それをわかっているのかとも聞きたかったが決めた心が強かったこともあって詳しくは聞かなかった。三枝が聴いたとしても言わなかっただろう。三枝にとってカメラは父の宝物だと思っていた。幼いころに一度だけ父の部屋に入ったことがあった。カメラに関係するものがきれいに陳列されているのを見てカメラマンになるというのは伊達じゃないと知った。
「お前はコンテストで最優秀賞を取っただろ。カメラマン目指すことができたんじゃないのか。何処でも売っているデジタルカメラじゃなくて、一眼レフとかさ。」
「それは俺にとっては親父が持つもので、本気じゃないと買ってもらえないことはわかっていたし、軽い気持ちでカメラマンになることを許さなかったから。だったら小説家になって伝える側になると決めたんだ。」
小説家になったことで変わったことは多かったが・・・。草間は持ったペットボトルの重さに疲れたのか、アスファルトにおいた。三枝も同じようにした。それで2人そろって空を見上げると雲は時間関係なく流れているのを感じた。昭が言った言葉を思い出した。カメラマンになるにしても戦場カメラマンになるなと。




