逃げた崖
橋倉と話しているとレンタルスタジオについた。そこにはスーツを着た2人組が立っていた。車から降りるとそっと寄って来た。
「三枝、今日は先生としての仕事だもんな。・・・っていうよりレンタルスタジオに入ろうかと思ったけど、場所変えたら困ると思ってな。」
「悪かったな、草間。」
三枝は彼にいうとニコリと笑った。立ち話をして聞かれたら困るのでレンタルスタジオの中に入った。橋倉が受付に行っている間、上条はペットボトルに入ったお茶を飲んでた。受付が終わって予約をしていたスタジオに入ったのだ。三枝の控え室になるスタジオに入った。そこには応接室のようにソファにテーブル。机の上にはお菓子が置いてあった。
「此処なら大丈夫です。小関さんの控え室も遠いですから。・・・俺は小関さんを外で待ちます。」
彼は言うとすぐに出て行ってしまった。上条と草間をソファに座ってもらい、三枝は化粧をしたりするのに置いてあったパイプ椅子に座った。インスタントコーヒーを作って渡した。
「対談っていうと出版社も大変なんだな。」
「橋倉さんはな、もともと別の会社にいたのを引き抜かれた人なんだ。俺を見ていることもあるし、お前はスクリプトに顔出しただけだからわからないか。」
「スクリプトっていうのは何ですか?」
上条はついていけないのか聞いてきた。
「俺の高校の時からの出版社です。澄川書店とは社会人になってからとなっていて・・・。スクリプトが俺を拾ってくれた会社で、コンテストを開催していた出版社が澄川書店なんです。」
「そのこともあって俺が素人ながらに口を出したんですよ。スクリプトに行って三枝のやりたいようにさせてやってくれて・・・。無謀だとしか思っていなかったけど、まさか社長さんが受け入れているとは知らなかった。」
草間の心の底から漏れた声を聴いた。上条は2人の仲を再確認しているようでもあった。彼はコーヒーをすすった。インスタントと言えどなかなか値段の張るコーヒーを買っていたのだろう。小関にはある程度の配慮が見えた気がした。対談をする相手に合わせていることもあるので、出版社の重さが感じられた。
「警察だってばれたら困るからな。・・・まぁ、人数が多いしスタッフとして紛れ込むことになるからスーツでよかったよ。」
「そうなのか。」
「橋倉さんが忙しくなかったら紹介したかったんだけどな。編集者としての仕事だけじゃないから大変だ。」
スタジオの外を覗くと橋倉は外で立っていた。緊張した顔を見つめているのは車だ。手ごわい相手だとわかった。




