烏はなく
対談の時間が迫ってくるにつれてライフオブの印象も高橋製薬の印象も関わった人間も悪くなっているようであった。三枝は対談の日を迎えたため、ジャケットを羽織った少しラフな格好をした。対談の場に行けば衣装が用意されていることもわかった上でだ。こういう日に限って担当者の橋倉が車を走らせてくるのだ。何故か毎回の決まりのようになっていた。アパートのインターホンが鳴った。玄関に向かい、ドアを開けると普段あまり着ないスーツを着ていた。
「先生、対談の会場へと向かいましょう。」
「そうですね。・・・橋倉さん、スーツを新調したんですか?」
「えぇ、上司から古びたスーツを着るのは先生の前とかではよくないと怒られたんです。俺は先生はそんなことを言わない人だって知ってますからそんなことないですといったんですけど聞く耳を持たなくて・・・。最後は経費で落ちるからといわれたので買ったんです。」
橋倉は少し気に食わない顔をにじませていたが、久しぶりのスーツ姿に心が和やかになった。アパートを降りて車に乗った。後部座席に乗るように言われているが、会話をしたいので助手席に何時も乗るようにしている。橋倉はこの仕事でよかったと思っているのだろう。運転をしているときは楽しそうなのだ。
「次回の小説の企画は弁護士とかどうですか?身近でありながら今や人数が増えすぎてピンキリとなった世界を生き抜く姿を映すのは・・・。」
「いいですね。知り合いにいろいろなことに巻き込まれた弁護士を知ってますし、聞けば経験談として語ってくれますよ。」
彼が弁護士といったのは、きっと何かの企画であったとしか思えないのだ。今の企画は仮決定に近く、もっと深く話し合いをするための軽い会話をした。それは世間話に過ぎないとも言えないことを知っている。
「先生と呼ばれるのが嫌とか安い服を着ているとか数少ないですがいるんですよね。その要望を応えようとしているのに上司の担当していたお堅い人だったらしくて・・・。絵にかいた小説家を担当したほうがいいのかどうか・・・。」
「それは経験としてとらえるに値すると思ってください。俺みたいな人間もいて・・・。まぁ、俺は高校生の時に拾ってもらった身ですから恩返しと思うんですよ。変わり者が何かを変えるとかいいますから、固定概念みたいに思うのもよくないです。」
「ですよね。上司が担当していたのは数人だけだったそうで、それもそろいもそろってというところです。」
類は友を呼んだ結果としか言えなかった。




