始まりという題
髙橋明子の事故を警察は当時はっきりと言い切らなかったのだ。むしろ、言い切れなかったのだ。三枝が発表した作品の参考にしたものがこの事故だったからだ。そのことで殺人であるがごとく書いてしまったことでマスコミが騒いだ結果だった。当時、高校生の三枝にとっては思っても見なかったのだ。そして、その作品が賞を取ったことで警察の立場の危うさを感じて口を濁したのだ。三枝は今ももっている十字架に近いものなのだ。遺族にののしられることがあってもよかったのだが、何も言わなかった。10年もたって事件が起きた。それも殺人だといっている。キャスターもうんざりとして表情をのぞかせている。テレビにいくら語ってもつまらない。チューハイを飲み切ってチーズが残ったので冷蔵庫へと入れた。彼は忘れたくて風呂に入った。時間がたつのを望むのは憚れるから。風呂に出た後、パソコンを開いた。そこにはメールが入っていた。橋倉から受け取ったということがあったのだ。対談相手がまだわからないともあった。そのまま、疲れたように寝込んだ。
朝だと気づいたのはうるさくなる携帯だった。
「もしもし。」
「俺だよ。三枝。」
「草間か。何かあったか?」
ドタバタとした音が響くのか聞き取りにくい部分もあった。それに加えて、草間がやけに慌てている。
「ニュースを見たか。」
「あぁ、見たよ。昨日な。高橋洋一って確か髙橋明子の息子だろ。その人が殺されたってことになるんだろ。」
「だから、警察としては再び高橋明子の他殺説が上がってきているからお前に当時の調べた資料を貸してほしいんだよ。・・・先輩に頼まれてさ。」
草間は警視庁捜査一課にいる。三枝のデビュー作をきっかけに警察の判断は謝りだとして高校の時に警察に入って解決すると豪語したのだ。三枝と別の大学を出た後に本当に警察に入ったのだ。高校の同窓会の時に聞いた。草間は高校の時の文芸部の仲間であるとしか思えない。当時の警察がそこまで詳しく調べたとも思えないので資料を貸してほしいといっているのだろう。
「いいぞ。俺もな、休憩としてこの事件を追うのはどうかといわれていたんだ。・・・受けることにするよ。」
「そうか。なら、いいな。」
草間はそういうと切ってしまった。三枝はすぐにスクリプトの荒木に連絡をした。資産家が自殺した件について追ってみるというと快く快諾してくれた。荒木は無理をするのだけはいけないと付け加えるように言ってくれた。




