出会いは前から
晴れた空は全く過去のことも知らないだろう。時間だけが過ぎていくのを見守っているだけかもしれない。それを眺めているのかもしれない。三枝は重い布団を上げた。カーテンを開ける度に変わらないときを見た。昨日の徹夜がたたったのをわかっていながら無視をした。携帯が鳴った。
「もしもし。」
「もしもしじゃないですよ。先生。締め切り前にキチンと出してくれるのはありがたいですけど、自分の健康管理くらいはしてください。それで確認もしたいので来ていただけますか?」
「わかりました。着替えていきます。」
三枝は散らかった服を選ぶというよりは拾っているのに近い。携帯でかけてくるのは荒木くらいだ。荒木というのは後程わかることだろう。車やタクシーに乗るのが手間なので大概、電車で行ってしまう。電車なら決まった時間に来てくれるのだ。たまに止まるのもいいと思う。荒木は催促をするようにたびたび電話をかけてくる。それは毎回の行事だとしか思っていない。駅に着くと少し歩く程度で出版社へとついた。出版社の名前はスクリプトで大きな会社ではない。大手に比べばまだ下のほうだと以前社長は笑っていた。エレベーターに乗った。降りても何も変わらないが、中に入ると対応を変わってしまうので嫌なのだ。ドアをそっと開けた。
「荒木、三枝先生が来てくださったぞ。・・・大きな会議室なり空いていないのか?」
出版社の社員がやけに大げさにしているとしか思えなかった。三枝はラフすぎる恰好をしているのに対応をされると困る。スクリプトに行くとこんな対応をされるのかというと高校生の時に荒木によって拾われたとしか思っていない三枝には迷惑なことだ。文芸部の雑誌を見た荒木が将来性を感じたのか勝手に賞に送られて大賞を取ってしまった。それで立て続けに取ったのもあって、スクリプトの稼ぎ頭といわれている。三枝にとっては思っても見ない対応ばかり。大きな会議室へと連れていかれてコーヒーをおかれた。ドタバタとした足音が鳴った。荒木が入って来た。
「先生、来ていたんですね。」
椅子に座るとすぐにコーヒーをすすった。喉が渇いていたのか全てなくなっていた。資料を抱えていた。
「荒木さん、作品はどうでしたか?」
「らしさがあっていいですね。社長も見ましたが、面白いといっていました。やっぱり、先生の作品だけお褒めになるんですよね。」
そういって笑った。荒木はすらっとした顔立ちで大学生にも間違えられてしまうのだろうと思った。