岩です【すげどう杯企画】
さんまの塩焼きを食べてみたい。
「君の口……何処?」
岩は喋らない。
俺はどこにでもいる岩である。気軽にロック様と呼んでほしい。今まで一度も呼ばれたことのない名前だ。何故なら今まで凭れ掛かった奴らはみんな俺の事を岩だの石だのガンちゃんだの漬物石には不向きのあれだのと好き勝手に言われているからである。自分の呼び名位、自分で決めたい物だ。
「あー、こんな所に岩がある」
きらきら光る石で買収をした少年が、棒読みが出来る機械よりも感情が籠っていない声で俺を呼ぶ。やっぱり、流行の玩具とか無駄に光る加工物の方がよかっただろうか。俺は岩なので人間の子供の好みなんて知らん。
「えっと、カンペカンペ……この岩は由緒正しき、道端に転がっておられるロック様であるぞ。へぇ、この岩ってそんな名前が付けられてたんだ」
きらきら光る石では少年を買収できなかったようだ。無念である、次の策を練らなければと俺は考えた。考えた結果、俺はロックバンドを始めようと思う。理由は簡単だ、名前の始まりにロックとついてるし流れでロックと呼ばれるかもしれない。様はもういい、謙虚な岩の方が恰好いいと思う。
それから、俺は努力した。歩く人の靴に蹴られ、時に子供の玩具となり、水攻めにあった。だが、これもロックになる為である、いやロックバンドを始める為だった。そも、ロックバンドとは何だろう。友達でも何でもない、そこら辺の草に聞いてみた。
「ロックバンド? 君みたいなのに紐がついてる、髪を束ねる奴じゃない」
それはヘアゴムである。何一つかすっていない気がする、一文字も同じ発音が見つからない。そもそも、俺には声という物が出ない。空気を振動させられない、さてどうするべきか。
「そんな悩める岩さんに名案だよ!」
見知らぬ猫が話しかけて来た。言葉を話せる猫はテレビに出ると売れるとこの前ベンチに腰を掛け怪しい人間から聞いた。俺は岩なので、金を貢物にされても困ることに気が付いた。でも、ロック様という名前は魅力がある。
「にゃーにゃー」
という事で、俺は素性が分からぬ猫と遊ぶ毎日を過ごした。三食昼寝付き、だが俺に食事は必要ない。時が経つと、寝顔がかわいいと猫が評判になった。岩と戯れる姿が目撃されるので、猫はロックと名前が付けられた。
なんでやねん。
END
美味しそうにさんまの塩焼きを食べていた、猫が。
「ロックくんって呼んでね!」
背中はお気に入りの位置である。
【別記】
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』