私の青春は夢の中?
『放課後体育館裏で待ってます。』
差出人のない手紙に私はドキドキを抱えながら教室に向かった。
廊下を歩きながら、おはようと挨拶しながら、誰からだろうと考える。
教室に入ると見たことのある先輩や違うクラスの同級生が当たり前のように座っていた。
それを不思議に思いながらも私は自分の席に着く。
それからその日の授業が終わり、礼の号令と同時に私は教室を出た。
階段を降りてスリッパのまま外に出る。
靴を履き替える余裕なんてなかった。
この一日、この手紙のことしか考えてなかったのだから。
体育館の裏まで回るとそこには誰がいるんだろうと高鳴る胸。
角を曲がるとそこには片思い中の先輩の姿があった。
「先輩…ですか?」
こんな距離で見たことなかったその先輩の姿が現実なのか分からない。
手紙を片手に私は先輩に初めて話しかけた。
「ちゃんと来てくれてありがとう。」
そう言って笑う先輩はもう私にはときめく材料にしかならない。
「いえ、手紙ありがとうございます。」
声は震えてないだろうか。
顔は変じゃないだろうか。
ちゃんと微笑めているだろうか。
不安と期待に揺れるこんな気持ちは初めてだった。
「察されてるかもしれないんだけど、いい?」
先輩は私が頷くと、嬉しそうに微笑んで言った。
「好きです。」
先輩のその微笑む顔が私をどんどん虜にさせる。
ドキドキが止まらない空間の中。
「私も先輩が好きです。」
そう言おうとした瞬間聞こえたのは母の声。
「いつまで寝てるの!」
私は唖然としてしまった。
さっきまで、先輩の告白を聞き、もう少しで付き合うというところまで来ていたはずなのに何故母の声がするのか。
「遅刻するわよ。」
少し冷たい声でそう言った母の階段を降りる音が聞こえて、やっと頭が働き出した。
「…夢。」
いよいよ始まると思った青春は私の夢の中で終わってしまった。
まだ少しのドキドキと寝起きのイライラで重い身体をゆっくり起こす。
少しボーッとする頭をどうにか目覚めさせて学校に行く支度をする。
「行ってきま〜す。」
今日は少し寝坊してしまったからバスは1人ぼっちだし電車も一本遅くなっちゃうな。
少し急ぎ足でバスに乗り込み、揺られながら考える。
先輩がもし本当に私のことが好きだとしたら。
いや、もうきっと先輩は私のことが好きなのだ。
夢を見ただけなのに、まだ付き合う、ということを経験した事のない私の頭は勝手な思い込みをしてしまう。
好きなはずがないと思う気持ちに、きっと好きだという気持ちが勝ってしまう。
次は〜、終点〜
運転手さんの声を聞いて、ハッとする。
バスを降りて電車に乗り換え、バスの中と同じような事を考えながら学校の最寄駅に着く。
そして一本遅らせた分早足でまた同じような事を考えながら、長い道を歩く。
いつもの電車だったらここで先輩に会えるのになと思いながら、自転車置き場の横を通る。
教室に入っていつも通り友達に挨拶して自分の席に荷物だけ置いて、友達のところに駆けつけた。