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素話、草案  作者: ヅメメ
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力よりも強いもの

ここは、どこまでも続く広い荒野

動物達の楽園です。


この広い荒野に、ライオンがいました。


ライオンは強い力と荒野のように広く、優しい心を持っていて

悪い者から弱い者を守る時、悪い者を懲らしめる時だけ、その強い爪と牙を使います。


そんな優しいライオンの事をみんな、お父さんのように、王様のように思い慕っていました。



今日もライオンは弱い者が困っていないか、悲しんでいる者はいないか

荒野を歩きます。



「バヂンッ」



そんな音がしたかと思うと、耐えられないくらいの痛みが走りました。


見ると丸くて硬い、銀色の自分の牙みたいな物が地面から出てきて足に噛み付いています。


「何をするんだ!離せ!」


自分の足に噛み付いてるものに必死に叫び、自分の牙で噛みつきますが、話を聞かず、力も緩めません。


ライオンがもっと強く怒ろうとした時


「パン!」


さっきとは違う、大きな聞いた事のない音が響きました。

直後、ライオンの片目が、カッと熱くなったかと思うと景色の半分が見えなくなりました。


音がした方を見ると、二本の足で歩く見たこともない、動物が細長い棒みたいな物を持ってたくさん、こっちに向かってきます。


音がする度、何かが通り過ぎます。


たまに、体のどこかが痛くなる時があります。


ーーー怖いーーー


「怖いっ!怖いっ!」


ライオンは怖くなって、逃げ出しました。

それでも、音は追いかけてきます。


ライオンは自分がどこにいるか 分からなくなるくらい、必死で逃げました。


必死で走ったので、高い崖があることに気付いていません。

後ろを見ていて、崖へと真っ直ぐ進んでいってしまいます!


と、「ゴロゴロゴロゴロっ!」


ライオンは崖下に真っ逆さまに落ちていってしまいました。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





その後、ライオンの事を心配して探しに来た動物に助けられ、命は無事でした。



でも、その姿は前とはまるで違っていました。


自慢だった、強い牙も、強い爪も失い

片目も見えなくなってしまいました。


なにより、常に何かに怯えるようにビクビクしていて、前までのような強いライオンとは信じられませんでした。


前のように荒野を歩く事もせず、塞ぎ込んでいるばかり

そんなライオンの姿を見て、みんな悲しくなりました。

そして、今まで助けてもらった分を返すようにライオンの事を助けてあげたのでした。



それから、時が経って



荒野から姿を消す動物達が出始めました。

動物達が姿を消した時、近くに細長い棒みたいな物を持った、二本足で歩く動物がいたという話です。



動物達は恐怖しました。

明日は自分が姿消すんじゃないか、と



荒野は動物達の楽園じゃなくなってしまいました。



みんな、ライオンに期待しましたが

ライオンは変わらずに塞ぎ込んでいるばかり


動物達はその姿を見て、一匹、また一匹と

ライオンの元を離れていきました。



ライオンは誰もいなくなった寝床で

1人、悲しみに暮れました。





ライオンが誰もいない時を見計らって、外に出て水を飲んでいた時です。


いつのまにか、ライオンの側に

小さな小さなライオンの子どもがいました。


まだ、目も見えていないのかフラフラと歩くのも定まりません。


もしかすると、二本足の動物に親を奪われてしまった子どもかもしれません。


ライオンはかわいそうに思いましたが、あの時の恐怖を思い出し、身震いしました。


ライオンは子ライオンを置いていこうとしましたが、フラフラとした足取りで必死についてきます。


見れば、子ライオンは痩せ細りボロボロの状態です。


ーー水を飲むのを助けてやるだけだーー


そう思い、子ライオンに水を飲ませてあげました。


その時の子ライオンの安心したような鳴き声と表情は、ライオンに懐かしい感情を呼び起こしたような気がしました。



どれだけ、置いていこうとしても必死でついてくる子ライオンをライオンは見捨てる事が出来ませんでした。


結局、自分の寝床まで着いて来てしまい、一緒に生活するようになりました。


子ライオンがお腹が空いて鳴いていたら、自分の食べ物を分けてやり


子ライオンが夜に寂くて鳴いていたら、小さな体を包んで一緒に寝てやりました。


そんな生活をしているうちにライオンの心に悲しみだけではなく、何か懐かしい、温かい気持ち生まれたような気がしました。



子ライオンはまだ、小さいままですが以前のように痩せ細った体ではなくなり

足取りもフラフラしなくなりました。


ただ、小さい時に食べ物を食べれなかったせいか、目が見えることはありませんでした。


ライオンは残ったこの、一つ目でこの子の分まで

世界を見てやろうと思いました。



ある日、自分と子ライオンの分の食べ物を取ってきたライオンが、寝床に戻ると子ライオンの姿がありません。


歩けるようになったとはいえ、あまり遠くまで行く事は出来ません。


嫌な予感がしたライオンは急いで、子ライオンを探しに行きました。


子ライオンを見つけました。


しかし、いつものような穏やかな顔ではなく、いきり立って、なにかに唸っています。


子ライオンの先を辿ると二本足の動物が立っていました。


荒野の動物達と、あの時自分に恐怖を与えた

あの動物です。


その、恐怖を与える動物に子ライオンが立ち向かっているのです。


やはり、親の仇だったのでしょう

小さな体を大きく見せて、決して引こうと

しません。


その姿を見て、ライオンはカッと体が熱くなりました。


恐怖ではありません。

恥ずかしさでもありません。


子ライオンを助けなければ、という気持ちと

二本足の動物を許してはいけないという気持ちが

ライオンの体を熱くさせたのです。


お前らあの時、俺が感じた恐怖をこんなにも小さな者に与えるというのか!


ライオンは荒野の動物達に王と慕われていた時の気持ちを取り戻したのです。



最初は驚いていた二本足の動物はライオンを見て、牙も爪もない事に気付いて、言いました。


「なんだ、あの時に逃げ出した、弱虫のライオンか

牙も爪も失ったライオンなんか怖くなんてない」



確かに今の俺には強い牙も、爪もない!

だから、なんだ!

そんな事、関係あるか!



牙がなくても!

爪がなくても!

俺には守るものがあるんだ!


俺が弱虫だったとしても、コイツが俺に勇気をくれる!

俺の勇気はここにある!


守れるのは俺しかいないんだ!

俺にしか守れないものがあるんだ!

理由なんか探していられるか!



ライオンは必死に戦いました。


牙も爪もない、隻眼の体で


どう戦ったのかは覚えていません。


でも、残ったのはボロボロ傷付いた体のライオンと

ライオンの傷を気遣わしげに舐める子ライオンの姿だけ。


ライオンは二本足の動物を追い払ったのです。




次の日から

傷付いた体で子ライオンと共に荒野を歩くライオンの姿を、荒野に住む動物達は見ました。


元気とは言えない、そのライオンの姿を見て動物達は痛ましげに、ガッカリした気持ちで見ました。


でも、その日から姿を消す動物の数は減っていきました。


それを知った動物達は一匹、また一匹とライオンの元に戻っていきました。



今では、ライオンだけじゃなく荒野に住む動物みんなが自分の大切なものを守ろうと思っています。


ライオンと共に


二本足の動物をすっかり見なくなった頃

荒野は以前のように動物達の楽園へと戻りました。


ライオンも以前のように、王様のように動物達から慕われる存在となりました。


以前と違うのは、失ってしまった牙と爪と目だけ


以前とは違い、強い力を持っていないライオンの姿


しかし、強い力を失っても

代わりに強い心と力がなくても恐怖と立ち向かえる勇気、荒野のように広く、優しい心を持っていました。


この、強い心と優しい心を持ったライオンの姿を忘れない限り


荒野は動物達の楽園であり続ける事でしょう。

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