見えない想い、でも それはきっと誰かが見てくれている想い
働き者のカカシ
田んぼに一つ、カカシがポツンと立っていました。
カカシの周りには、これからお米へと育つ稲と その稲を育てる農家の人達がいました。
カカシはただ、ポツンと立っていました。
春、農家の人達に一つ一つ しっかりと田んぼに植えられた稲達は少し大きくなったようです。
カカシの膝位の高さになって葉っぱも増えました。
風を受けてユラユラと揺れています。
農家の人達は毎日、稲の大きさを測っては嬉しそうに笑うのでした。
カカシはただ、ポツンと立っていました。
夏になりました。
カカシと農家の人達の優しさに育てられた稲はカカシの腰位まで大きくなりました。
けれども大きくなった分だけ風もいっぱい受けて稲は倒れそうになっています。
農家の人達は、稲が自分達だけで立てるように 田んぼの水を抜いたり入れたりしています。
そうすると稲の根っこが強くなるのだと、農家の人達が教えてくれました。
カカシは「優しさにも色々あるんだなぁ…稲が早く、逞ましくなるといいなぁ…」と思うのでした。
カカシは、ただポツンと立っていました。
カカシは思います。
「稲はお米に育つ事が出来て凄いなぁ。
農家の人達は稲を、精一杯育てられて凄いなぁ。
僕はただ、立ってる事しかできないや。」
カカシはただ、ポツンと立っていました。
秋です。
稲はもう、どんなに強い風が吹いても倒れない位逞ましくなりました。
お米もいっぱいつけて、太陽の光を浴びてキラキラと光っています。
農家の人達は、お米に悪いところがないか調べて
収穫に備えるのでした。
カカシは「お米が大きく、逞ましく、綺麗に育って凄く凄く嬉しいなぁ…」と思っていました。
その時です。
たくさんのスズメやツバメがやってきて、お米を食べ始めたのです。
いくらカカシがやめろと叫んでも、平気な顔でお米を食べ続けるのでした。
カカシはただ、立っている事しか出来ませんでした。
その日、カカシの足元に ポツンポツンと ふた粒の雨が降った事は誰にも気付かれませんでした。
そして、お米は農家の人達に大切に収穫されて田んぼにいるのはカカシだけになりました。
カカシの仕事も終わり、農家の人達に大切に仕舞われるのです。
その際、農家の人はカカシにこう言います。
「今年も最後まで立っていてくれて、ありがとうなぁ。
また、来年も宜しくな。」
その言葉を聞いて、来年も頑張ろうとカカシは思えるのでした。