こんにちはフラウ
「おー」
空が近い。
「おー!」
陸が遠い。
「おー!!」
お天道様が眩しい。
「おおー!!!」
そんなところに町がある。
「あはは!いい反応だねー」
「始めてだからな!」
「ほあぁぁ…」
「ベルも始めてか!」
「おっきいまち…!」
「ああ! しかも空飛ぶまちだ!」
浮遊都市フラウは、今三人と二匹の客を迎えていた。一等騒がしい少年、カズが駆け出そうとするのを見て年長の少女、リュエルが首根っこを掴む。
「ちょっと待って」
「ぐえ」
「これからやること覚えてる?」
「お?忘れたぞ?」
「即答かぁ…」
「たべものー」
「うんベル一つ正解。カズより賢いねー」
「えへへー」
「ぐぬぬ…」
「あと一つ目的があるよ、なんだろう?」
「ぐぬぬぬぬ…」
カズが首をひねって考えているが、答えは出ないようだ。
「グギャー」
「ギエー」
リュエルの隣を歩く脚竜たちが呆れたような声を出す。
「なんかバカにされたような気がするぞ」
「はい時間切れ。答えは身分証を作りに行く、でした」
「おー、そうだったそうだった!」
まるっきり忘れていたようだ。
(この気の利かなさ、お母さんを思い出すなぁ)
リュエルは今隣にいる二人の問題児と肩を並べるほどの自由人の顔を思い出していた。だからこそ、萎えてはダメだと気合を入れなおす。そうしないと制御を効かせる気力がなくなるのだ。
「よーし、じゃあ始めてここに来た二人には観光してもらいながら、身分証の製作と買い物を済ませちゃおっか!」
「「おー!」」
「二人は私の側から離れないように!」
「「おー!」」
元気な声で子供二人に号令をかけ、引率をするつもりで前へ前へ。
(なんだかんだ言って、迷惑もんの面倒を見るのが好きなんだよなあの娘は)
少し後ろで、三人が町へ入って行くのをシルゼヴァーは見届けていた。
「ウチの若いのとぶつからなきゃいいが」
「おっ、誰かと思えば竜飼いのとこの娘ちゃんじゃないか」
「お久しぶりです、クレアおばあさん。今日は何が安いですか?」
「おすすめはアメノミだよ。甘ーいのがたくさんなったのさ」
「リュエルちゃーん!こっちにもいいトビウオガシラはいったからおいでー!」
「あ、ありがとうございまーす!」
道行くと露店の人々が口々に客を呼び込もうとする。フラウの中央官庁へ続く滑走路通りは、今日も今日とて大賑わいだ。
リュエルは財布を少し確認し、並べられた野菜や果物を選ぶ。
「じゃあそれとこれとー…」
「バリバリシャクシャク」
「サプサプモサモサ」
「こらこら子供達、そりゃ売り物だよ」
「ん、まじか。ベル、食事をストップだ」
「あまーい」
「」
目を離した隙にこれである。リュエルのコメカミに青筋が浮かぶ。
「…あの子達が勝手に食べてる分を」
「ははは、まけたげてもいいよ?」
「いえ、大丈夫です。二人ともちょっとこっち来てね」
「もぐもぐ…ゴクリ」
「?」
「憤ッ!!」
重めの打撃音が街道に轟いた。
「ホンキで殴ることないじゃんかー!」
「ひんっ」
「煩いよかわいい穀潰しどもめ、ばんごはん抜きにされなかっただけありがたいと思え」
「もうしわけありませんでしたー!!!」
「ご"べ"ん"な"ざ"い"ぃ"〜」
「あーもう、そんなに泣かないの。いい子にしてたら帰った時アメノミケーキつくってあげるからね」
「う"ん"」
「グエ」
「はい、リーちゃん達にはご褒美」
リュエルは荷物を乗せているライドスに、透き通った赤い果実アメノミを与える。
「中央官庁へはもうちょっとで着くよ。身分証作ったら今度はどこか行きたい?」
「あのデッケェかんばんみたいなのにいきてえ!!」
「えへへまたあめもみたべたいー」
「アメノミ、だよベルちゃん。そっかー風受けが気になるかー」
町の中心部から少し離れた四箇所に、巨大な木の板が鎮座している。それこそが風受けと呼ばれる町を浮かすからくりの一つである。
リュエルは遠方を見やり、
「よし、今日のお昼はあのでっかいのの下でなにか探そっか!」
「いいね!」
「さんせー!」
「グァグァ」
「グエー」
「あはは、リーちゃんとライちゃんはごめんね。埋め合わせもするから」
荷物持ちが延長となったリーちゃんとライちゃんが不満そうな声を出したが、それをリュエルがなだめる。
「はっはっは大変そうだな嬢ちゃん!」
「いえいえ大丈夫ですよ! …ところでそちらの浮蜘蛛良さそうですね…」
「おおわかるのかい?こいつはね…」
リュエルが露店に引き止められ、再び品物の吟味を始める。
「ん、」
「どした?」
「なんかかぜが…」
ベルの目の前で台に置いてある売り物が転げ落ちる。
「あっ」
ベルがそれを拾おうと追って、道の真ん中に来る。
『カズ(小声)』
「なんだオペレーター」
『強い風が来る。道の奥からだ』
「ーッ!」
にわかに大路地の奥より轟々と音が鳴り出す。
「ベルッ! もどれ!!」
「?」
「ッ! いけねぇ、嬢ちゃん!! 道の脇へ寄れ!」
「えっ、 キャ!!」
「ベルちゃん!?」
瞬間、滑走路通りを通り抜ける暴風。なすすべもなく飛ばされるベル。そして、
「ベル!!!」
瞬間的にベルの方へ飛び出すカズ。
「なっ、小僧!?」
「カズ!?」
暴風の中、カズは手を伸ばす。
「つかまれ!!」
「! うんっ」
刹那、二人の少年少女は風の空気を叩く爆音のなか、消えた。
「カズ! ベル!!」
「行くなリュエル!!お前まで飛ばされるぞ!それにこんな時のための身分証の魔力だろ!」
「あの子達は! まだ身分証を持ってないの!!」
「ッ!?」
「私も行かなきゃ…ッ!」
「リュエル、いったん落ち着け。大丈夫だ。ここの駐屯騎士にはアイツがいる。きっと助けてくれるさ」
「でも!」
「でももくそもない。あれを見な」
「…あっ」
リュエルが風の中目を凝らすと、空を飛翔する光が見えた。
「流星騎士だ。来てくれたぞ!」