皆で支える空中都市
都市の上に投げ出されたリュエル達。眼下ではゆっくりと高度を下げる空中都市が見える。
「谷の底で、残りますか?」
「どうだろうな。地の底には地震の災害龍がいる」
迷宮都市だったそれは、嵐が去ってほどける雨雲の中、谷の中に吸い寄せられるように落下していく。
「団長」
「あぁ」
シャトルが高度を下げる。
「リュエルさん。後でお礼をさせてください」
「お互い様です。助けにいくんですね」
「はい」
シャトルは尾を引きながら高度を落としていく。
「伝えたいことが、あるんじゃないか?」
「…」
背中でシルゼヴァーが問う。シャトルは口を引き結ぶ。
「今は、それどころではないです」
「…そうか」
シャトル達は着陸態勢に入った。
都市の裏、そこではキラキラと舞い落ちる龍鱗の中で、少年と少女が再開していた。
「よかったねー!」
「うん…」
目尻に涙を溜め、少年を抱きとめるフラウ。
「ベルちゃん…」
「なぁに?」
「ありがとう…!」
「うん!!どういたしまして!!」
ベルも笑顔を見せて喜ぶ。周囲にふわりと綿毛が散った。
そこで、ドームの入り口の扉が開いた。
「ぐえ」
ドチャ
「あ、カズ!!」
「カズくん!?」
ぼろぼろで、黒焦げになったカズが、二人の前に投げ出される。
「ーよう。さっきぶり」
「カズ!!!」
「ごめんなさい。残滓との戦いをあなたに任せてしまった…」
「いーんだよ。ニセモノだったしな」
カズはフラウの手の中にあるゼーを見つける。
「ホンモノは、そっちだったか」
「カズ!!わたしがみつけたよ!?」
「ひは、ひは。オレの負けか。そうか、負けたか…」
ぼろぼろのカズを胸に抱くベル。奇しくもフラウとゼクスの態勢に近くなる。
「うふふー」
「ひはは、オトコどもがなさけねーな」
「わきゃ、」
「ぶ」
都市が揺れ、ベルが転ける。カズも落ちる。
「にゅ…」
「おまえなぁ」
都市が落下していく。その揺れが迷宮の裏まで伝播していた。
「…」
「おとすの?」
「…ううん」
「まもるの?」
「うん」
「おまえがか?」
「もう一度、彼と守りたい」
フラウは積み重なる龍鱗の一枚を手に取る。
「…!」
足元がふらつき、へたり込む。力を込めようとするも立ち上がれない。
「ふっ…!!」
しかし座り込んだまま手元に魔力を纏う。翡翠色の風が再び集まり龍鱗に注がれる。
「…!、うえ、うっ」
口元を覆い、うずくまる。
「ゆるしてくれるよ」
「…えっ?」
ベルがフラウを覗き込む。
「ここのひとは、いいひとだよ?ちゃんといえば、ゆるしてくれるよ!」
「オレも、ゆるすのかよ?」
「うん!カズもゆるしてくれる!だからフラウも」
ベルはゼクスを指差す。
「ゼクスといっしょに、ゆるしてもらお! だれも、わるくないんだから!」
ベルはフラウに笑いかける。そこでズシンと、大きな揺れが襲った。
「わっ」
「なんだ!?」
「…!」
次の瞬間には、揺れが完全に収まっていた。
「都市の落下が、とまった…?」
「わぁ、あれ!!」
「なんだ、あれ スゲェ…!!」
ベルが空を指差した。
「これは…!」
「うわぁ…!!」
「…ははは!」
都市の下、入り口にほど近いところでシャトル達は着陸していた。そこで落下する都市を見守る、つもりだった。
「いやー、やっぱこの町すきだわ…」
「すごい…っ!皆、皆!!」
「いつかの風船!」
「銀翼船!!」
「空入り壺!」
「蜘蛛空絵!!」
「どんどん出せ!!ほかに浮かせるヘイロー持ちは!?」
「Aの3に一人いたよ!!でもまだ子供だ!」
「当人の意思で参加したなら問題ねぇ!!ほか全員で支えてやれ!!」
「どんどん来てるよ!?てか多いな浮遊系能力!!」
「当たり前でしょ!!ここはフラウよ!!」
空中都市中の能力者が、総動員して都市の落下を防ぐ。町は綿毛に覆われた姿から、どんどん混沌とした見た目に変わりながら、それでも飛び始める。住民達の力で。
「おいアバラのジィさんが張り切り過ぎてぶっ倒れたぞ!?」
「看病ー!誰か医者ー!!」
「Aの1で受け入れ態勢整ってるって!」
「アバラジィさん、無茶すんなよ」
「じゃあ夫の分まで頑張るかね」
「セボネのバァさんが来た!」
「風神演技が来たぞ!!これで安心だ!!」
「ー!!シャトルさん!」
「、は、はい!!」
呆けていたシャトルは、リュエルの言葉に叩き起こされる。
「出来ること、したいです!!」
「ー、!!貴方って人は…!」
リュエルが指差す方向を見て、シャトルは口を綻ばせる。
「おじさんは向こう手伝ってくるよ。何する気か知らないが、無事に帰ってこいよ」
「ーはい!」
「オイ何だその間は」
「行ってきます!!」
活気溢れる住民の姿は、騎士達とリュエルを立ち上がらせた。
「すごい!!すごーい!!!みんなー!!ありがとーー!!!」
「ーーこりゃ、勝てねーわ!!」
「ーーあは」
「フラウ!?」
フラウはまた涙をこぼした。今度は嬉し涙だ。
「私達だけで、背負うこと無かったんだ。こんなに、こんなに皆んな強いんだもの。ね、見て。ゼー」
ゼーの目からも涙が落ちる。龍鱗が鮮やかに輝き、フラウと都市と混ざっていく。
「皆んなに、返そう。これは、皆んなの力なんだ…」
「なーるほど!そりゃいーな!!」
「どういうこと?」
「ばっかおめー、こんなにいっぱいチカラがあるんだぞ!」
龍鱗が、飛んで行く。行き先は、人の住む町。
「ずっと、浮かしつづけられるようになるさ!!皆んなのチカラでな!!!」
町中に龍鱗が浸透する。人々の胸に、腕に、頭に、ヘイローに龍鱗が分けられ、つけられ、合体する。
「なんだなんだ?」
「すごい、ヘイローが、さっきより強く…!!」
「これなら、この力なら!!」
「空中ホテルは起動に乗ったばかりだ!!ここで都市を落としてなるものか!!」
「自分で浮かせるようになれそうだな!!」
「この町じゃなきゃつまらんだろう」
「…あんたサイコーだぜ!!!」
「いつか利用するね!そのホテル!!」
都市を支えるヘイローが輝きを増し、より力強く、より大きくなり都市を浮かす。
『「皆んなーーっ!!!!」』
拡声器で叫んだような声が都市に届く。その元には、リュエルとシャトル、そして
『「この子、龍鱗をくれるなら、都市を支えてくれるんだって!!大丈夫、空中都市フラウは、落ちません!!!」』
足元には、超巨大な空飛ぶクジラがいた。
《ブォオオオオオオオオオオオ》
「オウトンだ…!」
「てかさっきのは龍鱗か!!?」
「え、国一つの年間消費エネルギーを一つで賄うっていうあれ!?」
「どどどどうしよう!?吸収しちゃったよ!?」
その時、オウトンの方へと幾多ものキラキラが飛んで行った。
《オオォオオオオオオオオオン!!》
オウトンはそれを嬉しそうに鳴きながら口に入れる。
そして都市の下に姿を滑り込ませた。
「やつの上に着陸するぞー!」
「どうやってタイミング合わせる!?」
「全員に声届くやつは…!?」
「今喉枯れて病棟行ってるよ!!」
『私が合図します!!』
「!!」
「リュエルちゃん!?」
リュエルが遠くまで届く声で、町と下のオウトンに伝える。シャトルにしがみつき飛びながら、大きくカウントダウンする。
『ゆっくり高度を下げてってください!!ペースを崩さず、その調子!!』
リュエルの指示で空中都市はゆっくり高度を下げる。徐々に徐々に、クジラの背中に近くなる。
『あと20秒ほどで着きます!!
ーあと10!!9!!8!!』
「「7!!!」」
町の人も叫ぶ。
「「6!!!」」
病棟でも休みながら叫ぶ。
「5!!」
ベルが叫ぶ。
「4!!!」
カズも叫ぶ。
「3…」
シルゼヴァーが万感とともに呟く。
「2…!!」
フラウが感極まり口にする。
「…1!!」
ゼクスが、起きる。
そして、町はーー