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ヘイロービート!  作者: 元長ニウレノ
はじまりはじまり
3/47

ベル

 森のなかに石造の立派なものみの塔が建っている。深い森のなかに建てたにしてはいささか立派すぎる塔に、二人の男が入ってゆく。


  その中は人でごった返していた。とても真面目に掃除されているとは思えない、汚らしいエントランスで下品な会話が飛び交う。


「おい、帰ったぞ」


  壮年の髭面がカウンターに呼びかけ、手に持った麻袋を下ろす。ホコリが舞った。


「お、帰ったかいジグザ」


  カウンターにいた青年がナイフを研ぎながら返す。よくこんな薄暗いところでナイフなんざ研ぐもんだと髭面が毒づく。


「なんか手土産があるようだね?」


 青年が麻袋の方を見ながら尋ねる。


「道中で二人ガキを拾ったんスよ」


 後から入って来た若い馬面が答える。


「一人はついさっきまで暴れに暴れてたッスから。元気いっぱいの良品ッスよ」


「ふーん」


 青年が麻袋の方を見やる。


「その割には今はおとなしくしてあるようだが?」


「寝てんじゃないッスか?散々蹴っ飛ばしてやったから気ぃうしなってんのかもしれないッスね」


 青年が目を細める。


「ちょっと見てみよう」


 青年が麻袋を開き、中身をぶちまける。


「あぐー」 「あーうー...」


「「「!?」」」


 ぶちまけられた床には、やたらやつれた少年とそれに抱きつき噛み付く少女がいた。


「あーおっちゃん...コレとって...」





 檻の中。少年と、少年に噛みつきっぱなしの少女がホコリにまみれた床の上に乗っかっていた。


「オペレーター。助けて」


 少年が情けない声をあげる。


『無理』


 オペレーターの返答はにべもない。


「あぐー」


 少女は引き続き幸せそうだ。


「いい加減おまえははなれろー!」


 少年が牢屋の中でゴロゴロ転がりだす。


「きゃはははははっ」


「はーなーれーろー!」


「きゃっきゃっ」


 少女は固く抱きつき離れない。掃除されてない牢屋にもうもうとほこりが舞う。


 ひとつだけある鉄格子から射す光が、夕焼けの色合いを表す頃、牢屋には疲れ果てて地面のシミのようになっている少年と、仰向けになってはしゃぐ少女の姿があった。


「たのしかったー!」


「おれはもうこりごりだよくそったれ」


『お疲れ様』


  疲労困ぱいな少年ことカズは、対照的に元気いっぱいな少女の方を見やる。


「んでおまえはだれなんだよ?」


「ベル!」


「オペレーターこいつはなにもんか知ってる?」


『知らない』


 処置なしとばかりに脱力するカズ。


「あーベルはベルだよ?でもベルはほんみょうをしゃべったらおとーさまにぶたれちゃうから、なまえをぜんぶおしえられないの。ごめんね?」


 脱力したカズに申し訳なさげに話しかける少女ことベル。


「お、おまえもオヤジがろくなやつじゃなかったクチだな?なんかしんきんかん湧くなー」


 ちょっと上機嫌になるカズ。思わず笑みを浮かべると、釣られてベルも笑みを浮かべた。


『嫌な親近感だな...』


 向こう側からこちらを覗いているオペレーターは苦笑いをしていた。





 薄暗い盗賊のアジト。ロウソクの灯りが等間隔に吊るされた石造の廊下を、馬面の盗賊が早足で通る。


「おいガキども!お迎えだぞ」


 馬面は牢屋の前にたどり着くなりそう怒鳴る。が、牢屋の中から反応はない。


「おいコラ早くでて来いっつってんだよ!」


 馬面が牢屋の前でがなる。牢屋の中身は廊下から見ると奥の方が暗くてよく見え無い。


「ッかしぃなァこの牢屋であってるはずなんだが...」


 馬面が牢屋の中を覗き見る。しかしそこには薄気味悪い暗闇しかない。


「...カンテラ持って来たらよかったな…」


 鍵を開けて牢屋の中に踏み込む馬面。


「ガキどもー、もう蹴らねぇからよー姿見せてくれー」


「わかった!」


「え、ちょっおま」


 刹那、天井に張り付いていた少年が盗賊の上に飛び降りる。


「ねてろォッ!」


 飛び降りた勢いで頭に踵落としを決める。


「ぐほぁ!?!?」


 馬面は地に倒れ伏した。




「新人のやつ遅いな」


 アジトの一階で管を巻く髭面と青年。


「大方、元気いいやつが大暴れしてるんじゃないか?」


「の割には音が聞こえてこねぇが」


「…そういえばそうだね。様子を見に行けば?」


「断る。あやつわしとおまえで露骨に態度が違うんだぞ」


「僕だって嫌さ。あいつ馴れ馴れしいんだもん」


 二人して新人の陰口を叩く先輩盗賊。その時、アジトの喧騒の中で二人の耳が外から来る足音を捉えた。


「あいつが帰って来たって訳じゃなさそうだな」


「足音一人、外から。手練れだね。ウチの情報伝達係かな?」


 扉が開く。


「こんばんは」


  入ってきたのは赤毛の女性だった。先程まで下卑た話で盛り上がっていた部屋の 音量がさがる。

  コソコソと遠回りに会話が続くが、女性は気にせずカウンターへ向かう。


「やっぱりディカだったか。こんな夜更けにどったの?」


 青年がそう尋ねる。


「お久しぶりです。シーマさん、ジグザ老師。あと新人がいる、との話でしたがどちらに?」


「今は気にせずともかまわん。先に用件を頼む」


「どうせ仕事だろう?」


  二人がそう言い先を促す。それを受けて、ディカは言葉を発する。


「 大奥様 からの指令です。明後日の未明に帝国東の“バス停”にて集合、とのことです」

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