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ヘイロービート!  作者: 元長ニウレノ
風孕む都市とプロポーズ
20/47

天空の大海

 浮遊都市フラウ、ここでは雨が降ろうと風の結界で阻まれ、ザンザン降りでも小雨しか届かない。しかし轟く風の音や雨足は聞こえるもので。


「うわぁー、めっちゃ降ってますね」


「もうそんな時期だったかな?」


「例年よりも早いな」


「そろそろ本格的な避難誘導を始めないとな」


 騎士の詰所のエントランスでは、嵐の日に見回りに回されなかった幸運な騎士達が雑務に追われていた。


「コラコラ、避難命令が国より降りるより先に憶測で喋るんじゃない」


「は、はい! 団長」


「まぁ仮に普通の嵐だったとしてもそろそろ来てもいい頃だと思うがなぁ」


()()()が来ているのは間違いないでしょう。先触れが先日襲来したばかりです」


 部屋にシャトルが入ってくる。


「おーうシャトル、意中の人との会合は楽しめたかい?」


「い、意中ッ!!?」

  ぽぴー


「煙上がってますよシャトル様…」


「だ大丈夫です! それより身内の方の証言により重要なことが判明しました!」


(誤魔化したな…)

(誤魔化せてると思ってんのかな…)


 シャトルが頭を強く振りながら机の前に来る。


「おそらくですがターゲットには協力者がいます。直接会った団長は彼の耳に変な機械があったことを覚えてますか?」


「あぁ、あったな。なんかの能力発動に使う物かとも思ったんだが、やはりそういう用途か」


「ええ。相手はその機械から彼に指令を出している模様。現在監視を妨害しているのもその耳の機械と思われます」


「なるほど! かの者は身体能力強化の能力以外にもヘイローを持つわけでは無く、」


「別途ヘイローを持つ者が指令を出しながらサポートしていたのか。なら迷宮の構造を把握したのもそいつの能力だろうな」


「ええ。それも証言にありました」


「まぁあの子たちのオツムで迷宮の構造を知りながら的確な逃走経路を選べはしないだろうからなぁ。進路を伝えるやつがその能力でサポートしていたって考えるのが妥当だ」


 シルゼヴァーは頭をぽりぽりとかく。


「しかし、そうと分かってても打てる対抗策はあまりないぞ。こちらの探知は誤魔化され、相手は順路を感知している。そもそももうこの町から出たかも知れない」


 シルゼヴァーの返答に、シャトルは静かに答える。


「ええ。ですので私は、一番強引な手を取ろうと思っています」


「!!」


「…」


 一瞬で 部屋の中の空気が変わる。


「正気ですかシャトル様!?今、このタイミングでに迷宮攻略をなさると!?」


「雨風が強い中での空中都市フラウの攻略は素直な自殺行為ですよ!!」


 周囲の騎士達が泡を食ったように話す。

 それをシルゼヴァーが手で制しながら、口で告げる。


「迷宮を攻略したものは都市長(ダンジョンマスター)と契約することができる。しかしシャトル、お前はもう契約済みだろう?」


「ええ。ですので戦闘支援を探知支援に切り替えてもらいます」


「なら次シキソクゼクウが来た時はどうする?」


「嵐が去るまでは来ません。すぐに再び迷宮攻略するまでです」


「…決意は固いようだな」


 シルゼヴァーは長く息を吐く。


「わかった。お前の迷宮攻略を許可しよう」


「団長!?」

「本気ですか!?」


 まだ何か言いたげな騎士達を抑えて、シルゼヴァーがシャトルに告げる。


「しかし、同行人を付けるのが条件だ」


「誰ですか?」


「一人目は俺」


 その発言だけで周囲の空気は少し緩む。


「団長が付くなら安心だ」


「団長のヘイローは撤退戦にて最強だからな」


「俺が危ないと判断したら問答無用で()()に放り込む。いいな?」


「はい!」


「あと二人…いや、二人と二匹か」


「…!!?」


 シルゼヴァーの視線の先をシャトルが追うと、扉の手前で仁王立ちになる二人の乙女と二匹の脚竜が。


「同行許可が出たと見てよろしいですね団長さま?」


「ふーん!」


「とりあえずお前らとシャトルは隠密と索敵能力をもう少し磨け。ここまで近づいて聞かれてたぞ」


「…気づいてたなら教えてくださいよ…」


「こいつらが上手いというのもある。俺も気づいたのは会話中だ」


「蚊帳の外はまっぴらです」


「ごめんですー!」


 怒り顔のリュエルとドヤ顔のベル。それを見て肩を落とす騎士達であった。








『あー、もう!町からの脱出経路にことごとくスレンダーマンが立ちふさがってんのはなんで!?』


「おれたちを町から出したくないのかもなー」


 強まる雨足の中、カズは浸水していないビルの中で雨宿りをしていた。


『なーんか奥の方奥の方に誘導されてる気がするのよね…』


「いーじゃねーか おく!なにがいるのか楽しみだな!」


『イヤホンが壊されないならそれでもいいんだけどねぇ』


「おっ、そろそろだな!」


 もぎ取ってきた木材がパチパチと音を立てる。カズは捕まえた魚を焼いていた。


「うまうま」


『妙に火加減が上手いな』


「なれてるからな。それより、塩とかおくれねーのかそっちから?」


『物資を転送できるのは限られた座標でだけだよカズ。その町に転送可能な場所はないね』


「ならしょうがねー…んおっ!?」

  ズズズズズズズズ…


 盛大に地面が揺れ、巨大な水の音が響き渡る。カズはビルの外に身を乗り出し、なにが起きたかを視認する。


「うおー、はっはっはっは!!すげー!すごすぎるぜー!!!」


『うわー、これは語彙力も消失するわ。すごい光景だ』


 空の上で、高波を見る。


『雲が、大波になってるとは』

  ザッッッパァーーーンン

「はっはっはやべーっ!」


 浮遊都市フラウ付近では、土地の問題から年中強風が吹き荒れている。

 そんな中、時たま水をたっぷりと含んだ雲が暴風に煽られることにより、標高三千メートル以上の天空で雲海が嵐の大海の様相を見せることがあるのである。

 その光景は畏敬を込めてこう呼ばれる。


神々の揺りかご(ジェネシスオース)…なるほど創世記が如き風景だね』


「うおおお、てかなみこっち来てない?」


『迷宮都市は都市長(ダンジョンマスター)が張ってる結界がある。都市の中まで大波は届かないさ』


「なるほどなー」


 彼らは知らない。迷宮の内、住民の住んでいない未開拓地域には結界はまだ張られてないということを。

 水槽回廊区域、そこはガッツリ未開拓地域であり、創世記の大波が直撃する位置であった。


「うおおっ なみちけーっ!」


『どこまで波は近づくんだ?防がれるとわかってても少々怖いんですが』


「…あれこれヤバイ?」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ーーザッッップァァァァァアーーーン!!!

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