通りすがりの
主人公はカズにする予定ですが、第2話にして別視点です。
木々がうわさ話をするかのようなざわめきが聞こえる。
葉と葉の間から射す木漏れ日が下手な劇の舞台のように乱雑に地を照らす。まるで童謡の世界のようなわざとらしい不気味さを醸し出している森のなかを、二人の男が歩いていた。
「しっかしよー
親分も心配性だよなー」
二人の内若い方がぼやく。
「親分と呼ぶな。大奥様の前だったら前歯折られてたぞ?」
それを、麻袋をかついだ髭面が返す。
「帝国なんて粋がっているだけに見えるけどなー。どうせ教国とガチンコできるほど軍は強いはずないじゃん?」
「教国が強すぎるだけだとも思うがね。
まぁ大陸征服なんて1代で成せることではない」
顎髭を開いた手でしごきながら髭面は続ける。
「わしらレッドキャップに危機が訪れるのなんぞ、あって数世代先の話だ。大奥様の懸念は杞憂だろうよ」
「違いない」
話をそれきり切り上げて、男二人は森のなかのアジトへ向けて歩く。森の闇は、油断した者から飲み込まんと不気味に口を開けていた。
黙々と落ち葉の上を踏みしめて歩いていた男達の耳に、ふと風以外の音が届いた。
「なんだ?人の声か?」
「人、それもガキだな。しかも魔物に追われてやがる」
「すげーわかんのか。達人みたいだ」
「お前もできるようになるまで生き延びたら一人前の盗賊だ。さあこっちに来るぞ」
軽口を叩き合う若い馬面と歳食った髭面。若い方は周囲を無用心にきょろきょろして、歳食った方は麻袋を下ろし腰を落としを迎撃の構えをとった。
次の瞬間、盗賊達の近くの草むらから小さな影が飛び出した。
「おっちゃんたち、逃げろッ!」
叫びながら駆け抜けていった影。その後ろから、豚の顔をした二メートルもの巨漢が地響きを立てながら出現した。
「オークだ!」
馬面がわたわたと武器を構える。髭面はその時にはオークと呼ばれる魔物に向かって駆け出していた。
「こい、手長猿 」
髭面が口を開くと、突然虚空から小さな猿が飛び出した。
「奴を投げ飛ばせ」
「キキッキキッ」
猿は腕を伸ばしてオークを掴むと、そのまま髭面の方に投げ飛ばした。髭面は刀を構えて待ち受けている。
「ブゴッ!?」
猿に投げられた先で刀に頭を貫かれて、オークはあっさり絶命する。
「お、おい大丈夫...ですか?」
「敬語は気持ち悪いからやめろ。それにおまえもこれくらいは出来るようになってもらわないと困る」
「キキッ」
まったくだぜ、とでもいいたげな手長猿の手には、先ほど走りこんで来た少年が掴まれていた。
「おっちゃんつえーな!なにやったんだ?」
そのままの体制で少年が尋ねる。
「投げて切った。それだけだ」
へーと感嘆するかのように口を開ける少年。ボサボサの白髪の下に、生意気そうな目が覗いていた。
壮年の髭面は麻袋の口を広げながらにやりと口の端を釣り上げる。
「いい手土産ができたな」
盗賊達のアジトはすぐそこだった。
次回、盗賊のアジト。