流星騎士
渦巻く風で少年と少女がまるで木の葉のように吹き飛ぶ。この町に来た二人の子供、カズとベルは今宙に浮いていた。
「ぬおおおおっ!?」
「きゃー!」
『カズ! 前を見ろ!』
「前って、どっち!?」
『無理矢理にでも目を凝らせ!』
「!?」
風間で揉みくちゃにされながらもカズが目を開けると、銀色の影が視界を覆った。
「! なにい!?」
『そいつが銀色亜竜シキソクゼクウだ!』
その姿は空中に浮かぶ鏡のようにも見える。 平たく巨大な身体を地に向け、丸い胴体にくっついている頭からぎょろついた目をのぞかせている。その姿はいわゆる竜のイメージからはとてもじゃないが似つかなくて。
「ヒラメじゃねーか!!!」
『頭の向き的にはカレイの方だな』
「今はどーでもいーわ!!」
町の外へと瞬く間に放り出され、銀色の巨体が目と鼻の先になる。
《WUooooooyoooooooo…》
シキソクゼクウが身を捩り、辺りに不協和音がほとばしる。それと同時に、カズの耳元の機械から異音が鳴り出す。
『…!ザザ...カズ!通信が…ザー…たえ…ザザーーブツッ』
「うおい!なんだなんだ!?」
「カズ!まえ!まえ!!」
「ッ!ぬおお近えええ!!」
気がつくと視界を埋め尽くす巨体が回避不可能な距離にある。
《WUAAAAaaaaaaAAAAAAAA》
「やばっーー!」
あわや激突ーー
その瞬間、音すら置き去りにする高速で人影が割り込んだ。
「大丈夫!!」
「お!?」
「わっ!!」
人影はカズとベルを抱え、銀の巨体の前から離脱する。
「もう大丈夫だからね! 落ち着いてじっとしててくれ!」
「おーっ!すげーはえー!!!」
「わあぁぁぁ…!すごーい!」
「け、結構余裕だな君たち…」
飛行機雲をたなびかせ駆けつけたのはまだ少年らしさが残った青年。しかし身につけている装備が物々しい。
「なんにせよ暴れて落ちないでください。あの竜はもう大丈夫です」
「ありがとな! えーと…」
「駐屯騎士のシャトル・ターボイズです」
「おう!きしのにーちゃんありがとな!」
「ありがとーにーさん!」
「…どういたしまして」
青年の背中には飛行機械のパーツが乱雑にくっついている。そこから推力を発生させ、まるでジェット機のように空を飛んでいる。
「ビャーッ風がつよいぜーっ!」
「あははははっりゅうさんさよならーッ」
「…よしこれだけ離れれば大丈夫ですね」
青年、シャトルは懐から奇妙な板を取り出す。
「こちらA-3。住民の救出に成功。他事故者の情報求めます」
『こちら中央。他に人影なし。これより防衛のため攻撃を開始。住民を連れて速やかに避難されたし』
「こちらA-3。了解これより離脱します」
「すげー、エージェントみてー」
「ありがとう。でもこれから加速するからつかまっててね」
「おう!」
「はーい!」
「行きます!」
背中の機械が爆音を鳴らし、凄まじい速度で騎士が空を駆ける。空中に光条と雲を流しながら、青年騎士は流星となる。
《WUooaaaAAAAAAA!》
しかしその後ろから竜も追い縋る。先程まで空を漂っていた巨体が、青年と町の方へ落ちて来る。
「うおおおぉっ!おいつかれてるぞー!」
「…!!」
「大丈夫です! 展開術式起動!!奴を吹き飛ばせ!!」
《!!?》
町の周りを漂っていた風が、追うシキソクゼクウへと殺到する。その勢いは凄まじく、巨体が空中でたたらを踏む。
「吹き飛べえええ!」
さらに、その竜へ向けて町の中央から大路地を通り砲弾が如き突風が巻き起こる。
《WUoooooooooーー…》
突風の直撃を受けたシキソクゼクウは、周囲の雲を跳ね飛ばしながら遥か遠くへ消えていった。
「っはー! あの風はそういうことかー!」
「都市防衛のための風圧砲に煽られたのですか。次からは都市ガイドラインに沿って、風の音がしたら道の端に寄ってくださいね」
「おう!そうする!」
竜は遥か後方に消え、騎士は町へと帰還する。
「…っ」
「いやーすごかったなベル!…ベル?」
「い、いや、なんでもないよ!」
「…よったのか?」
「あー、出来るだけ揺れないように飛びますね」
「ちがうけど…」
向かう先は、詰所。