目覚め
拙い文章ですが、どうかよろしく。
整備されてない森の中、ぺたんと座り込む影ひとつ。
「かあちゃんが死んだ」
湿った落ち葉の上に乗っている影はそうひとりごちる。目の端の涙の跡はもうほとんど残ってなかった。
『おーい、頭冷えたかー』
少年の形をした影、その耳に付いたイヤホンから突然女の声が発せられた。
「もう冷えた」
投げやりに返す影。
『本当は?』
心持ち楽しそうに聞き返す声。
「もうどうにもならないことをなやんでもしょーがないだろー」
『つまんないなー死者復活の儀式を探すとかしてもっと足掻けばいいのに』
「かあちゃんはおれにはどうにもできない存在なんだよ」
近くの木から鳥の形をした何かが飛び立ち、羽ばたきの音が響いた。
「かあちゃんの死もかあちゃんのだからおれはどうにもできないよ」
影は誇らしそうに胸をはった。
しばらくは木々のざわめきだけが場を支配していたが、遠くで鳥のもののような鳴き声が聞こえたところで影が口を開けた。
「ここはどこだ?」
ふたたび声が聞こえてきた。
『森』
「それは知ってる。寝たとき森のなかじゃなかったと思うんだけどなー」
あれー? と首をかしげる影に声が応える。
『そりゃそーさ。あんたはうちの企業の実験の被験者に選ばれたんだよ』
「きぎょーのじっけん?」
『そうさ、詳しく説明がいるかい?』
「いる。じょーほーしゅーしゅーはきほんだっておっちゃんがいってた」
『そうか』
声の向こう側からガサガサという音が聞こえる。その後、バリバリとスナックをかじるような音が続いた。
『さくさく…んん、じゃあ今回君がなんでそこにいるのかを含めた説明をしようか …
もぐもぐ』
「おい」
『君がいるそこは便宜上ヘイローと名付けられた異世界 。我が 双葉コーポレーション社が見つけた世界を渡る技術を使ってもぐもぐ
…ごくん、初めて社員と実験生物以外の転生をおこなった場所さ。さくさく』
「おれにも食わせて」
『つまり君は異世界転生を果たしたのさペチャペチャ』
「くわせて」
『ごめんなまだ食いもんはそっちに送れないんだわ』
「嘘つき!」
『なんで!?』
しばらくの口喧嘩の後、影の手には某ポテトのチップス的なものの袋が握られていた。
『なんで私が嘘いったのがわかったのさ…』
「かん!」ビリッ
『んな無茶な! と言いたいところだけど、それでこそこの実験の被験者にふさわしいね』
「?」バリバリもぐもぐ
『君はその世界にきたこちらの生物がどのような変異を起こすのかを観測するテストケースになってもらう』
「やだ」さくさくくちゃくちゃ
『こちらが君の様子を観測するだけさ。死なないように多少のサポートも行なうつもりだよ?』
「やだ! おれはあねきを探さないといけないんだ! もとのせかいに帰る!」ポイ
『そのあねきがそちらの世界に来ていたとしても、か?』
刹那、影の周りの空間がまるで膨張したかのように 何か がその場を満たした。
影はゆらりと立ち上がる。小動物達が慌ただしくその場所から離れようとして、草が揺れた。
風の音が聞こえる。
「ほんとうか?」
そこに立つ少年が念を押すように口を開く。
声は嬉しそうに返答した。
『いるさ。大平 カズ。君の姉 、大平 ミチルは、我々が転生の技術を完成させる前に、なんらかの手段でこのヘイローの世界に転生している』
少年は、しょうがなさげに苦笑した。
森のざわめきがおおきくなる。
「あのバカあねには、オシオキおしないとな」
『という訳だから、バカあねを見つけて帰るまで実験に付き合ってもらうよ。オニガミのカズ』
それからしばらくして、草を踏み分ける音が東に向かって続いていった。その音も聞こえなくなるころには、鳥のような何かは巣にもどってヒナに餌を与えていた。