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 意気揚々と神父の所へと向かう途中で、1人の女性が視界に入った。


 ん?


 他にもポツリポツリと礼拝をしている信者の姿があるにも係わらずその女性だけが気になる。


 何故だ。


 立ち止まって見つめた所でNPC化しているので不審がられる心配もないので遠慮なく観察すると、すぐに違和感の正体がわかった。


 うっわ、懐かしい。

 アレ、『超変形合体ご馳走ダー!』ロボじゃね!?


 俺のことなどに見向きもせずに祈りを捧げている女性の手に、その懐かしい特撮戦隊モノのロボット玩具が握られていた。


 『超変形合体ご馳走ダー!』

 俺が小学校低学年の頃に日曜日の朝に放映されていたアリガチな特撮戦隊モノのタイトルだ。

 コレが見たくて清志の誘いを断ったんだった。

 懐かしい記憶が脳裏に蘇る。

 幼児が好きなメニューの定番、オムライス、ハンバーグ、カレー、エビフライ、そして紅一点のプリンが、『美味しいけれど健康的じゃない悪の秘密結社ジャンク』と子供達の健康を守る為に戦うという、大学生になった今では何じゃそりゃーと思うような番組だ。

 中でも印象に残っているのは、イエローであるカレーが、ジャンクの手先である揚げパンにそそのかされカレーパンとして一時的に闇落ちしたエピソードだ。

 結局、揚げパン共々改心して丸く収まったのだが、その際、画面の下に『揚げ物の食べすぎには注意してね!』というテロップが入ったのが印象的だった。

 食料品メーカーや外食産業から良く苦情がでなかったものだ。

 少なくとも、今の時代では放映できないだろうな、と思い出して苦笑いを浮かべた。


 「しかし、未だに大事に持ってる人もいるもんだなあ」


 何気なく呟くと、女性がピクリと反応して俺の方を見た。


 あれ、独り言でも話しかけた判定になるのか。


 少し驚いていると、女性は、NPCとは思えないような物悲しい微笑みを浮かべてこう言った。


 『これは、息子の形見なんです』


 想像以上に重い話題に思わす後ずさる。

 しかし、そんな俺の様子にはお構いなしに女性は話を続ける。


 『息子は、このロボットがお気に入りで、駄目だって言ってたのに毎日学校に持っていってたんです。そしたら、下校中に上級生に取り上げられて道路に放り投げられて・・・・それを拾いに赤信号なのに・・・ううっ』


 そういえば、そんな事件があったな。

 小学校の時に、隣の学区で起こった交通事故だったはずだ。

 俺の小学校でも朝礼で『学校に不要物を持ち込まない』『交通ルールを守ろう』みたいな話をされた記憶がある。

 しかし、事件の詳細は知らなかった。

 親や教師も小学生に詳細を説明したりはしなかったのだろう。


 しかし、これはもしかして。


 「それって、ホームセンターの前の横断歩道のことか?」


 『ええ。そうです。あの子はトラックに轢かれてバラバラになったのに、このロボットだけは綺麗なままで・・・まるで息子が身を挺して庇ったようで・・・』


 意外にも、俺の言葉の意味を理解した言葉が返ってきた。

 てっきり、男子児童は数ヶ月前の事故の犠牲者だと思っていたが違ったようだ。

 俺が小学生の時のロボットなのだから、10年以上は昔の事故だ。

 女性の頭上を確認してみたが何もなかった。

 しかし、スマートフォンのMAPを確認してみたら目前の女性と神父両方に光エフェクトが点滅していた。


 これは、もしかしたら・・・。


 「息子さんは、これを探して横断歩道で彷徨ってますよ。俺が届けてきてもいいですか?」

 『あの子が!?まあ・・・!お願いします。あの子は喜んでくれるかしら・・・』


 瞳に大粒の涙を浮かべてロボットを差し出してきた。

 それを受け取って、


 「ええ・・・きっと」


 そう答えると、女性は、


 『息子をよろしくお願いします』


 と深々と頭を下げた。

 そして、そのまま微動だにしなくなった。

 スマートフォンを確認すると、思ったとおり、神父の方の光エフェクトが消えていた。

 神父本体の頭上の『!』は健在なので、何かしら会話イベントがあるのは間違いないが、男子児童に対してのイベントは、神父からの神聖系スキル取得ルートと母親からの遺品獲得ルートで分岐していたようだ。


 同じ成仏するにしても、心残りは出来るだけ少ない方が良いだろう。


 俺はそう思ってロボットを握り締めて件の横断歩道まで戻った。

 男子児童は、相変わらず道路上をユラユラと彷徨っている。

 俺は、ロボットを男子児童の影に差し出すようにして近付いていく。


 もしも、俺の思い違いでロボットを無視して襲ってきたら、その時は覚悟を決めよう。


 ゴクリと喉を鳴らして一歩一歩近付いていく。

 距離が100m程になった辺りで相手もこちらに気付いたようだ。


 『ぁ・・・ぁぁ・・・』


 小さな声が聞こえてくる。

 俺は、出来るだけ大きな声で話しかけた。


 「これ、お前のだろ?お母さんから預かってきたんだ!」


 『ぉヵぁさ・・・!』


 男子児童は、フラフラとした足つきで傍まで来て俺に手を伸ばしてきた。

 その手にロボットを渡してやると、


 『ぁ・・りが・・・ぉ』


 小さなお礼の呟きを残してロボット諸共、塵のようになって消えていった。


 チャチャーン!


 男子児童を無事、成仏させることが出来た喜びと物悲しさをぶち壊す軽快な音に若干の苛立ちを感じながらもスマートフォンの画面を確認すると、クエスト図鑑が一箇所埋まっていた。

 俺は、虚しさを感じて長いため息をついた。



 やっぱり、このゲームを作ったヤツはクソだな。


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