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 ホームセンターを余すところ無く探索した俺は手に入れた装備や消耗品を通路の真ん中にまとめておいている。


 「どうするかなぁ」


 思ったよりもたくさんのアイテムが手に入ったのは良かった。しかし、俺が1人で持てる荷物の量には限界がある。すべてを持っていくのは難しい。

 一番、使い勝手の良さそうな『銀の剣』を右手に持ってスマートフォンの画面を見つめる。

 図鑑には、


 『シルバーの剣

  片手剣、聖なる銀で出来ている

  攻撃力20 アンデッド補正20』


 横断歩道の男子児童に対抗するには、これほど相応しい武器はないだろう。

 しかし、これ以外の武器を置いていくのは勿体無い。

 どうにか対応策はないものか。


 しばらく、画面を撫でていると自分のステータス画面に目が止まった。


 『タナカ LV18 男


  HP:275

  MP:86


  装備

  頭:なし

  服:普段着(E)

  靴:スニーカー(E)

  右手:銀の剣(E)

  左手:なし』

 

 装備の横についている(E)ってゲームでお馴染みの装備してますよ表記だよな。

 これを外したらどうなるんだ?


 俺は画面上の片手剣をトントンっとタップしてみる。


 シュンッ


 空気が振動するような音がして持っていた銀の剣が消えた。


 「これは、もしかして」


 倉庫の画面を見ると銀の短剣が入っている。その文字をタップすると、


 シュンッ


 再び、右手に銀の短剣が握られた。


 「おお。つかえる!」


 俺は早速、床に置いていた他のアイテムも倉庫にしまった。

 倉庫にどこまでアイテムが収納可能かはわからないが、当面は荷物の心配がなくなったわけだ。


 さて、どうしようか。


 画面に並ぶアイテムを見つめながらこれからのことを考える。

 最終目的はゲームのクリア。これは決定事項だ。揺るがない。

 図鑑にクエストを収納する場所があるのでハッピーエンドへはこのクエスト図鑑を完全補完オールコンプリートした後に魔王討伐することだろうと予測する。

 しかし、俺が目指すのはノーマルエンドだ。

 この条件達成への見極めが難しい。

 魔王以外のモンスターに倒されない限りはバッドエンドにはならずに強くて再挑戦リスタート出来るようだが、このエンディングリスト、


 『ノーマルエンド:主人公が平穏な日常を取り返す

  ハッピーエンド:世界は救われ、主人公は幸福な日常へ戻る

  バッドエンド :主人公は孤独に永遠を彷徨う』


 この表現の違いには意味があるはずだ。

 魔王を討伐すれば世界は救われる。まず間違いない。しかし、主人公が平穏な日常を取り返す、つまり俺が『このゲームから脱出』するのに魔王討伐は必要か?という疑問がある。

 もしかすると魔王討伐をせずにエンディングを迎えるクエストがあるのかもしれない。

 すべてのクエスト回収とまではいかなくともそれなりに物語ストーリーを進めるてみるしか現状わかっている情報ではどうにもならない。クエストフラグを立てて重要なクエストか判別をつけながらやっていくしかないだろう。

 チュートリアルみたいな『おつかい系』は除外でいいだろう。まだ発見していないけれど『採集系』も同様だろう。探すべきは『討伐系』だ。NPCの依頼で中ボス撃破、新しい装備や魔法、次の行動の指針となる言動を拾い集めていく、それがRPGだ。

 『討伐系』クエストを見つけて進んでいく、で当面の行動目的は定まった。

 となると、NPC戦ではない人型モンスターである男子児童との戦闘は経験しておくべきだろうか。

 今、ここで避けてもPRGでは人型との戦闘は避けて通れない道であることに気付いてないわけではなかった。


 でもなぁ。


 別に自分は正義の味方を気取るつもりはない。

 ごく普通に英雄ヒーロー願望も持ってはいるけれど、清廉潔白に生きているわけではない。嫌いなヤツの悪口を言ったこともあるし、小学生の時に母親オフクロの財布から小銭を拝借したこともある。だから、人型だから倒せない、絶対に人殺しはイヤだとまでは言わない。

 ただ、相手が悪い。


 窃盗犯や殺人犯ならいざ知らず、交通事故で亡くなった罪のない男子児童だぞ?


 そこにいるから死んでくれ、なんて完全に割り切れるほど俺は悪党にもなれない。


 まいったなぁ。

 こう自分でも迷ってるのではまともな戦闘にはならないだろう。一旦、この場はどうにかして離脱してから考えよう。後になってどうしても討伐しなければならない状況になったら覚悟を決めるしかない。


 「あー、どっかにお経でも落ちてないかなぁ」


 そうすれば成仏の祈祷でもしてやれるものを。

 髪をかき乱しながら天井を見上げる。


 ん?

 お経?

 成仏?

 神聖系魔法?


 ふいにホームセンターから自転車で5分程先に教会があったことを思い出した。

 確か、カトリック系教会だったはずだ。

 土・日の朝に一般開放の礼拝をやっていたような?

 地図画面を操作して近隣MAPを確認する。

 教会の位置に光エフェクトが点滅している。

 行ってみる価値はありそうだ。


 俺は立ち上がってホームセンターの出口へを急いだ。





 ホームセンターの出口で素早く自転車に乗った俺は、教会前まで来た。

 『聖カトリック●▲■教会』

 ホームセンターほどの広さはないが、白く美しい礼拝堂で時折、結婚式が行われる程度には立派で地元民に愛されている教会だ。

 敷地内にあるこじんまりとした自転車置き場に自転車を止めて表の看板を見る。


 『聖カトリック●▲■教会

  

  平日礼拝:午前6時・午後4時

  土日礼拝:午前8時・午後4時』


 子供の頃に聞いた話だと、平日礼拝は信者向けで、土日は一般開放デーらしい。

 勿論、平日も参加自由だけれど、土日の方が初心者向けにわかりやすい説明があるらしい。あと、小学生はお菓子が貰えたり折り紙で遊ばせてもらえるらしい。『一緒に行こうぜー』と幼馴染の清志きよしが誘ってくれたことがあった。しかし、その時間にやっているアニメだったか特撮戦隊モノか忘れたけれど、ともかくテレビが見たかった小学生の俺は一度も参加したことはなかった。

 今思えば、一度くらいはネタとして参加してみてもよかったな。大学生になると1人で教会に入るのは勇気が必要だ。


 まぁ、今は皆NPCなわけだけど。


 俺は、礼拝堂の重厚な扉を両手で押し開ける。

 正面にキリスト像。その後ろと側面の壁面にはステンドグラスが埋め込まれていて美しい。テレビでみたことのあるような風景だ。まっすぐに伸びる通路の左右には礼拝者が座るための椅子が均等に整然と並んでいる。そこには数人の礼拝参加者。真正面では神父と思われる人物が立っている。その頭上には『!』が浮かんでいる。


 アタリだ。





 









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