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 一通りの確認作業が終わったので、クエストを終了することにする。


 「オヤジ」


 声をかけて父親オヤジに『父親の弁当』を差し出す。


 ピコーン!

 軽快な音が鳴り響く。

 父親の頭上に、『!』のアイコンが浮かぶ。


 『タナカ、わざわざ持ってきてくれたのか。ありがとう』


 タ・ナ・カ


 母親の時にも感じたが、両親からプレイヤーネームで呼ばれる違和感ハンパない。


 父親は、弁当を受け取ると、


 『今日は、遅くなるから母さんによろしくな』


 と、言った。


 ふざけんじゃねーぞ、クソ父親オヤジ

 と思ったが、父親が廊下から仕事場へ移動して仕事を始める素振りを繰り返すようになったので黙ってその場を後にした。


 ゲーム終了後にも、リアルで同じセリフ言ったら一発ぶん殴るかもしれない。

 沸々と湧き上がってくる怒りを抑えながら父親の会社を後にした。


 恐らく、これで自宅に戻って母親に報告すればこのクエストの完全終了になるはずだ。

 この後、どうすればいいのかわからないので、寄り道せずに自宅に向かうことにした。


 ピコーン!ピコーン!


 いつもよりも激しく警戒音がした。

 慌てて画面を見ると、


 『モンスター発見!』


 モンスター!

 どこだ!?


 周囲を見渡すと、電信柱の影から、ユラリと黒い影が出てきた。

 真っ黒で輪郭の定まらない揺らぎを感じさせているけれど、犬のようなシルエットをしている。


 GRRRRRRU!


 威嚇するような重低音が響く。

 俺は、鉄の短剣を取り出して構える。

 習得しているスキルは『突進斬り』だ。

 闇雲に振り回すのではなく、走りながら突くように駆け抜ければいいのだろうか?

 上手くヒットすれば良し。ダメなら全力で家まで逃げ帰る。

 方針を決めて俺が走り出す。

 犬もこちらに向かって駆けてきて宙に飛び上がる。


 あ・た・れぇぇぇぇぇ!


 俺は、力強く突き出して駆け抜けた。


 チャチャーン!

 軽快な音と共に、確実に当てたという手堪え、そして背後に何かが落ちる音を聞いた。


 よしっ!


 俺は握りこぶしを作って小さくガッツポーズをする。

 倒した!

 犬のいた辺りに、箱が落ちているのが見えた。

 近付いてみてみると、宝箱だった。鍵はかかってなくて簡単に開いた。


 チャチャーン!


 箱の中にはB5くらいの紙切れが入っていた。


 何だ?コレ?


 俺は、スマートフォンの画面を確認する。


 各種熟練度上昇と、討伐成功のログの最後尾に、


 『スペルスクロール:ファイアーボールを手に入れた!』


 と、出ていた。


 「おおおお!」


 喜びでつい声を上げてしまう。


 これって、魔法が使えるようになるんじゃないか?

 俺は、スペルスクロールをじっくりと見つめる。読めない文字が書かれているだけで、使用方法の説明などは見当たらない。

 ふと思いついて、紙を左手に持って右手を宙に翳しながら、


 「ファイアーボール」


 瞬間、青白い炎が右手から燃え上がり真っ直ぐに飛んでいってブロック塀にぶち当たる。直ぐに火は消えて確かな燃え後がブロック塀に残された。スペルスクロールは、霧状になって消えていった。


 チャチャーン!

 『火属性魔法:ファイアーボール習得!

  MP3消費

  ファイアーボール熟練度1取得』


 どうやら、スペルスクロールは一度使うと消えて、魔法が習得できるようだ。

 熟練度をあげれば威力もあがりそうだし、初めてのドロップにしては上出来なのではないだろうか。

 MP3消費という項目が気になる。

 自分のHPとMPの確認をしていなかったことに気がついた。

 しかし、外で立ち止まっているのは危険かもしれない。

 詳細は、自宅ですることにして再びスマートフォンをポケットにしまっておく。


 ピコーン!ピコーン!


 またしてもモンスターが登場したようだ。

 短剣を構えて警戒しながら周囲を見回す。

 100mほど先の側溝から、黒い影が2つ現れた。先程と同様、犬のような形状だ。

 2匹は、寄り添うように立っている。

 相手は、こちらにまだ気がついていないようだ。

 俺は、短剣を突き出しながら一直線に走り出す。


 「ファイアーボォォール!!」


 叫びながら短剣を突き出す。


 GYANNNNN!


 犬達は断末魔の悲鳴を上げて燃えながら朽ちていった。


 成功だ!


 手から魔法がでるならば、剣で攻撃しながら魔法を発動すれば2重攻撃ができるのではないか、と行き当たりばったりの思い付きで挑戦してみたが、大成功だったようだ。


 チャチャーン!


 軽快な音が鳴り響く。

 今回は、宝箱はドロップしなかった。

 少々残念だが、経験値は確実に稼いだのだから良しとする。

 その後、自宅に着くまでに合計10匹の犬型モンスターを倒した。


 「ただいまー」


 いつもの習慣で、玄関で帰宅を告げる。

 母親からの返事はなかった。

 玄関で靴を脱いで自室に向かう。

 すぐにクエスト終了の報告をしてもよかったのだが、もしもの場合を考えて先にステータス確認をすることにした。


 RPGでよくあるよね。

 主人公が頼まれた用事を済ませて村に帰ると不幸な事件が起こるヤツ。

 村が燃えていたり、村人が惨殺されていたり、無人だったり、魔物の襲撃で家族が攫われたりとか。


 そもそも、このゲームの主人公が、なぜ魔王討伐をしなければならないのか、という物語の核の部分が未だ提示されていない以上、最悪な事態を覚悟しておくべきだと思った。

 画面を操作して自分のステータスを見てみる。



『タナカ LV5 男


 HP:100

 MP:20 』


 いつの間にか5にまであがっていた。

 HPとMPが、多いのか少ないのかLV1の時に確認を怠ったせいで判断できない。

 スキルは、片手剣スキルレベル2、突進斬りレベル2、ファイアーボールLV1、火弾かだん剣レベル1になっていた。

 どうやら、剣技と魔法を合わせ打ったことで手にいれたようだ。

 このゲームのスキル獲得は、案外簡単で自由度が高い気がする。

 今までのRPGプレイ遍歴を生かして新しいスキル獲得と強化をしていきたい。


 改めてMAPを確かめてみると、両親の寝室にも光エフェクトが2つあった。

 自宅の外、範囲1kmくらいまで表示可能で、何箇所か同じように光っている。

 近いので、自室の隣の部屋である両親の寝室へ入ってみると、1つは押入れ、1つは母親の洋服箪笥だった。

 押入れには、『携帯食料』が入っていた。食べるとHPが小回復するらしい。見た目は、某栄養補給菓子に似ている。母親の洋服箪笥は、開けられなかった。いくら家族でも、女性の箪笥を開ける勇気は俺にはない!


 ゲームの勇者は、どこでも容赦なく開け過ぎだよな。


 昔から思っていたことだが、実際に自分がやるとなるとハードルが高過ぎた。

 もう家の中に光っている場所がないことを確認して階下の台所へ向かう。

 母親は、食器洗いを終えて拭き作業に入っていた。同じ皿をエンドレス拭いている。


 「オフクロ、ただいま」


 チャチャーン!


 声をかけると同時にシステム音が聞こえてくる。


 『おかえり、タナカ。ありがとうね。お前の分の弁当も作っておいたから持って行きなさい』


 見ると、テーブルに新しい弁当箱が1つある。

 母親は、それきり拭き作業に戻ってしまった。

 特に続きはないようだ。事件も起こらない。スマートフォンを確認する。


 『クエスト終了!

  チュートリアル終了おめでとう!

  さあ、勇者よ。この世界を自由に旅して世界を救おう!』


 なんだ、チュートリアルだったのか。

 俺は安堵のため息をつく。

 時間を確認する。

 8時30分。

 チュートリアルだから時間が進まなかったのか?

 他のクエストを進行して確かめてみなければわからない。

 

 さて、最短攻略にはどうすればいいだろうか?

 クエストを沢山こなして物語を進める?

 ひたすら外でモンスター討伐でLV上げ?

 デートの時間までには終わらせたいので、時間が進む可能性のあるクエストは避けたい。

 当面は、自宅周辺のモンスターを倒してLVを上げよう。そう決めて俺は玄関に向かった。




 

2016.9.12 誤字修正

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