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10話 王城での一時



 結論だけ言うと、正体不明の強敵とファリーダ姫たちには逃げられた。

 ゼノの放った《傲慢(スペルビア)》の攻撃で消し飛んだわけではないが、痕跡もなく消え失せてしまったため、目下のところ兵を動員して王都で全力の捜索中だ。

 そして現在、王城へ戻った私はゼノに小言を食らっている。


「まったく……お前はどうしてそう見通しが甘いんだ。伏兵がいる可能性を常に考慮しろと昔からあれほど言っているというのに、なぜ学習しない」

「いやぁ、ごめんごめん。ところでゼノ、王都上空で戦ってる私が見えたから執務を放り出して、窓から飛び出て来てくれたんだってね」

「………………誰に聞いた」

「ベリト宰相閣下」

「……あいつめ、どうしてそう余計なことは正直に言うんだ」


 ゼノは金色の目を苛立たしげに細め、ちっと舌打ちする。

 戦闘で受けた傷を癒やしたり、父さん……ドラクリヤ大将軍に状況を説明して指示を出したりと忙しくしていた時に、ベリトはふらりと私の所へやって来たのだ。ベリトへはゼノが事態のあらましを語っているはずだから何をしに来たかと思えば、いつも通りの慇懃無礼な笑みを浮かべながら「少しお耳に入れたいことありまして」とさっきの情報をくれた。

 本当に何がしたいんだろう、あいつ。

 けどまぁ、ゼノが幼なじみの私を大事に思ってくれてるっていうのが実感できて嬉しかったので、今回ばかりはベリトに感謝してもいい。


「…………ん……ここ、は……?」


 かすかな声に振り返ると、ソファに横たわっていたラシードが目を開けていた。

 空色の瞳が天井を見上げ、二度、三度瞬きをすると、野生の獣さながらのしなやかな動作でガバリと上半身を起こす。警戒の眼差しが私とゼノに向けられた。


「……テメェら、ここはどこだ?」

「王城の応接間の一つ。ラシードはゼノが放った攻撃の衝撃波で吹っ飛ばされて、意識失って落下しかけてたので私が拾ってここまで運んできたんだよ」

「ってことはそいつが魔王ゼノビオスか」


 敵意むき出しの視線がゼノへと固定される。

 対するゼノは不機嫌そうに腕組みしながら、ラシードを真っ向から睨み返した。


「だったら何だ」

「聞きたいことは一つだけだ。俺の故郷を焼き滅ぼしたのはテメェか?」

「俺にそんな無意味なことをする暇などないし、仮に暇を持て余していたとしても自国の民でもない辺境の民族など滅ぼすほどの興味もない。そんなことをしている時間でどれほどの書類が片付くか。俺にはそっちの方が有意義だ」


 ゼノはきっぱりと言い放った。

 ……ああああ、本心をストレートに伝えすぎだ、幼なじみよ。いきなり噛みつくように容疑者扱いされりゃ、ムッとするのも理解できるけどね? それでも故郷を襲われて、気が昂ぶってる相手にはオブラートに包んだ方が良いって。


「…………へぇ、言い切ったな」

「あれ? 爆発しないの?」


 意外すぎて思わす声を上げると、ラシードは嫌そうにうなずいた。耳につけられた金色のピアスと、編んだ一房の髪が揺れる。


「この力の差で嘘を言う理由がこいつにはねぇ。その気になりゃすぐにでも俺を虫けらでも踏む潰すみてぇに殺せるっつーのに、『俺は犯人じゃない』って言う意味はあるか?」

「そう! そうなんだよ! ゼノは犯人じゃない。たとえ『なんか怖い魔王ランキング』一位だったとしても、ゼノは良い魔王なんだよ!」

「……だからって完全に信じたわけじゃねぇが」


 ラシードの瞳にはまだ疑惑と警戒が色濃く残っていた。


「私もファイルーズ族壊滅の真犯人が知りたいんだよ。ルキフェル王国の治安のためにもね。だからさ、ラシードの封印された記憶が戻るように協力する」

「あ? どうやって?」

「この城にはすごく記憶の分野に通じた魔法医がいるんだ。かくいう私も、どうしても思い出さなくちゃいけない記憶があってお世話になってる。時間はかかるかもしれないけど、頭がパーになる危険もなく記憶の封印を解くことができると思う」


 考え込むように押し黙ったラシードに再度畳みかける。

 ここは押しの一手だ。


「なんなら私の治療場面を見てから、その魔法医にかかるかどうか決めてもいい」

「……分かった。テメェの案に乗る」


 よぉし、交渉は成立した!

 ラシードが目覚めたら一悶着あるかと覚悟していただけに安堵も大きい。


「じゃあ、さっそく先生の所に行こうか」

「……ディア、これから保管庫に行く予定だったろうが」

「そうだった。うわ、ごめんゼノ。いや忘れてたわけじゃなく、一瞬頭から飛んでただけであって、そんな大事な用事を忘れてたわけでは」

「忘れてたろ」

「……はい、そうですね。ごめんなさい」


 むすっと口元を引き結んだまま、ゼノが立ち上がった。

 私も扉に向かう彼に続く。振り返ってラシードに声をかけた。


「ごめん、ラシード。先生のところに治療を受けにいくのは戻ってきてからで。それまでは用意した客室に行ってて」


 扉の外に控えていた小間使いの少年にラシードの案内を頼む。


「分かった。それまで休ませてもらう。ちっくしょ、変に頭が痛ぇ……」

「あーそれは……」


 たぶん衝撃波で派手に吹っ飛ばされて、脳震盪起こしたせいだろう。

 言わぬが花、と沈黙を選択して、私は部屋を出た。



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