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01

 正直に言います。「私が神だひゃっほー!」なんて、思っていた時期が私にもありました。ええ、ありましたとも。ただそれは最初の数時間だけで、後はもう事の重大さに泣きそうになっています。

何故かって? 私が倒れたら――あるいは無理だよこんなのと投げ出したら、この世界は滅びてしまうから。この世界に生きるものたちが、全て無くなってしまうから。私の行動ひとつで。

それが、たまらなく怖い。平々凡々を地でいく私に、一体どうしろというのか。強大な力を持った神になっても、力を振るう精神(こころ)は以前と変わらないのに。


「私も、死にたくないし……」


 誰かのためにだなんて高尚な理由ではなく、自分自身が死にたくないという理由。それならば、押し潰されそうな重圧も多少は軽く感じられる。

そうして心を奮い立たせて、緩やかに滅びへと向かう世界をどうにかして救おうと。怖い怖いって言いながらも、行動を開始した。


 まずは世界を識ることから。幸いなことに総ての情報が集まる深淵へアクセスする能力は所持していたため、特に苦労もなく情報を入手出来た。

世界の名は『ラウィノ・アルカ』。空を巡る『ソル』という紅き太陽が黎明を呼び、『ルナ』という蒼き月が黄昏を呼ぶ。ラウィノ・アルカには三つの大きな大陸があり、北西にある『ノーティアス大陸』が一番小さく、山が多く平地が少ない。寒さも厳しい。東にある『イスフェン大陸』が二番目に大きく、緑が多い。安定した気候で過ごしやすいため栄えている。南にある『サピスネウル大陸』は一番大きいものの暑さが厳しく、砂漠や荒野が広がる大地。この三大大陸と海、無数の大小様々な大きさの島々を含む世界全体のスケールは、地球の約二分の一程度。


「世界の広さの割に人口が少ない、な。ええと……大体、五千万人くらい?」


 呟きつつ杖の先で床を鳴らすと、半透明なウィンドウに映し出されていた世界地図に数字が付け足された。

中世レベルの文明のようだし――魔法の恩恵で一部は現代よりもかなり進んでいるが――それを考えると妥当な数字か。


「……その多方面で活躍している魔法が原因で、世界は滅びへ向かっているんだけど」


 下界で必死に生きている人間(ひと)たちは、そんなこと知りもしないだろう。彼らの中に深淵を識る者は未だ居ないのだから、仕方がないのかもしれない。

魔法とは、 " 神や精霊から借りた魔力と自身の魔力 " を用いて " 思い描いた奇跡として発動させる術 " である。――そう。神や精霊が存在していることが、魔法という技術の大前提なのだ。

 では、その前提である神や精霊が居ない今、どうやって魔法が使われているのか。答えは、これ。


「無色の魔力――かつての神々、精霊たちだったもの。世界の命そのもの」


 世界に満ちる温かな力は少しずつ、確実に、減ってゆく。消費されるなら新たに生み出せばいい、なんて。私もそんなことを考えたけれど。それは叶わない。

万物には魔力が宿っている。世界も、かつて存在していた神と精霊も、今も生きる人間も。全ての生けるものに共通することで、その身に宿る魔力は属性毎に色が付いている。火ならば赤、水ならば青、風ならば緑、地ならば茶、光ならば銀、闇ならば紫、時ならば虹、と。大抵は一番得意とする属性だけを宿しているものばかりだが、中には複数の属性を宿しているものもいる。そして宿している魔力が、イコールで生み出せる魔力。つまり、有色から無色は生み出すことが出来ない。


 " 生けるものが死ぬと宿っていた魔力は無色となり、世界へ還る " ――この、例外を除いて。


 新米神とはいえ神には変わらない私が死ねば、かなりの量の無色の魔力が世界へ戻るだろう。――でも私には、出来ない。

世界に生きる人間、亜人、獣、魔物……総てを滅ぼせば、無色の魔力が消費されることはなくなるだろう。――これも、私には出来ない。


「結局、神々と精霊たちを喚び戻すしかないと」


 現状、私が思いつく救済案はこれしかなかった。いや、正確にはもうひとつ案があるけど、こちらはちょっと無理があるので却下。

神々と精霊を喚び戻す方法は――精霊は神の眷属なので、先に神をなんとかすべきか。まず、火、水、風、地、光、闇の属性毎の神になれる存在(もの)を見つけなければいけない。

世界(ラウィノ・アルカ)という大きな会社を共に運営するひとを探す、とも言い換えられる。とても大事なことなので不肖、経営者のひとりである私がきっちりとそのひとの人となりを調べさせていただきます。「このひとと一緒に仕事がしたい!」とか、「互いに楽しく働きたいよね」とか。元居た世界では贅沢なんて言っていられなかったから、この世界ではその辺りをクリアしたい。切実に。どう考えても超長期で働くことになるだろうし。


「……さて。愚痴になる前に、行動開始しますか」


溜息を零しつつ、金色の鍵杖を振るう。虹色の光に包まれながら、私は時の島から下界へと転移した。




   -+-




 転移特有の浮遊感が消え、視界が切り替わった。転移先に選んだ場所は、イスフェン大陸の大半を占める『ラ・ズィール国』の首都『エルラ』付近にある小さな森、のはずなのだが。その割には緑が濃すぎるし、近くに高ランク魔物(モンスター)の気配がする。


「どう見ても辺境の森だよ……どうしてこうなった……」


 大自然の中でひとり、頭を抱える。転移魔法を使ったのは初めてだし、座標設定ミス説が濃厚です。でもいきなり首都へこんにちはしなかっただけマシかもしれない。どの国の首都も強力な結界が張ってあり、中へ直接転移してしまうとその結界をぶち破ってしまうことになる。そんなことになれば大騒ぎは免れないし、騒ぎになると神候補探しも難しくなってしまう。

 ここからエルラまでは距離がありすぎるため、再度転移をしようと集中した、その時。森の奥から甲高い鳴き声が聞こえた。


「! 今のは……」


 ほんの一瞬。ともすれば気のせいで済ましてしまうだろう刹那。魔法を行使するものと私の " ライン " が繋がった。時属性は他の六属性と違いその性質上、素質をもつものが非常に少ない。候補探しのために力をある程度オープンにしているとはいえ、(わたし)と直接ラインが繋がるなんて。是が非でも確保せねば。幸い、位置は繋がった際に把握している。向こうも切羽詰った状況のようだし、少々強引で申し訳ないけれど、こちらへ来てもらおう。

 宙に展開する魔法陣。その中に杖の頭を突っ込んだ。


「せぇーの! ――どっせいッ!!」


お世辞にも可愛いとは言えない掛け声と共に、釣りよろしく杖を引き上げる。杖から伸びる虹色の魔力糸に繋がれていたのは、一羽の白い羽ウサギだった。

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