05 家へ帰った。
「これは『生命の記憶』なのだ」
緑の水晶の中心部で、微かに光がまたたいた。
その中心部でみるみる何かがふくれあがっていく。
それは最初魚に見え、次に両生類に見え、そのうち人間の赤子の姿になり、少年になり、青年になり、年老いて、ミイラになって、最後は水晶の中に溶けるように消えた。
「ここには、最終戦争前に地球上にいた大半の生命の情報が保存されている。これと同じものが世界各地にあるが、オリジナルはここにあるものだ。今地球上に存在している生命の多くは、2000年ぐらい前にここから生産された個体を起源としている」
今度は水晶の中に双子の少女が現れて、共に育ち、共に年老いて、共に消えた。
知らないうちに魅入っていた。
知らない間に涙した。
「あなた達は……旧人類は、神様になったの?」
「いいや。これのつくられた意図は、むしろ逆だろう」
逆。
旧人類さまは逆だと言った。
「僕らは生命の過去の全てを、ここに持っている。しかし未来を持っているわけではない。僕らはいささか、恒久的で知性的にすぎる」
「……遠回しな自慢?」
「そんなガールズトークみたいなことはしない。いいかい君。優れた知性体は星の支配者たりえる。しかし神性は手に入れることができないのだ。このままではね」
ふいに景色が変わった。
満天の星空。
足元には、光の水が水平線まで広がっていた。
水平線は異様に近かった。
「さて、そろそろお別れだ。あまり長い間、君の体を仮死状態にはできないからね」
……仮死状態?!
「大丈夫だよ。君はまだ若い。問題なく戻れるという話を友達に聞いたよ」
「あの、もうちょっと、保証のほうを……」
水の中から美しい人魚が現れた。
“ひどい……ひどいわ。結ばれないのが運命だというの? ”
“愛って何なの?”
「ははは、気にするな。パスワードの確認だよ」
ずいぶんと重いパスワードの確認だ……。
旧人類さまが耳打ちをするというので、かがんで耳をよせた。
旧人類さまが帰りのパスワードをつぶやいた。
そして、「それではな」と言った。
「……あの、もしかしてこれが今生の別れだったりします?」
「さあ。会うかもしれないし、会わないかもしれない。気が向いたら遊びに行くが、その時は君の孫の時代かもしれないね」
「……そうですか」
自分でも、神妙な顔になってしまったと思う。
察してか、旧人類さまが微笑んだ。
「これだけは覚えておいて欲しい。僕はいつでも、君たち新人類を見守っている。女の子のお着替えを、少女の性への目覚めを、僕は耐えず見守っている。それが僕の趣味だからね」
ろくなものではなかった。
「……ろくなもんじゃないですねぇ」
「はは、それほどでもないよ」
ほめてない。
“ひどい……ひどいわ。結ばれないのが運命だというの? 愛って何なの?”
私は大きく息を吸った。
「ためらわないこと!」