第二幕 第一節 私はお人好しではない
私、月夜野千里と彼、兎双創代とのゲームは一段落を終えたところろだった。
突如、ガラリと第二研究室の扉が開き私たちの視線はそちらへと向けられる。
闖入者、その正体はこじんまりとした小さな少女だった。
上履きの色を確認すると、1年生みたいだ。
黒い髪をボブカットにして、目には泣きぼくろがついている。小動物みたいで庇護欲をそそられる見た目といった感じだ。
ここまで走ってきたのか息も絶え絶えと言った感じで、肩で息をしながらなんとか部屋へと入ってきた。
「ようこそ、いらっしゃい。お嬢さん、何か御用かな?」
彼はソファに座ったまま、余裕を持ってそう答える。
私は席を譲り、立ち上がり彼女を椅子へと座らせる。
そして入れ替わるように、第二研究室を出ようとした。
今回の私の目的は兎双君と問答をすることではなく、将棋部の幽霊美少女の正体を見破りに来たのだ。
その目的が果たせた以上はここにいるべき理由はない。
忍者のようにそっと部屋を出ようとした時だ。
「あの、ここにあらゆる難事件を解決してくれる探偵さんがいるということなんですが貴方ですか!?」
「いや、違う。そっちのお姉さんだよ。お嬢さん」
「ハァッ!?」
驚きのあまり思わず声が出てしまう。
そしてそれと同時に部屋を出るタイミングを失った。
「あ、あなたあらゆる難事件を解決してくれる高校生探偵さんですか!」
彼女はすがるような目で、こちらを見つめてくる。
その時の私は苦虫を噛み潰したどころか、苦虫を噛み潰した後にまずいもう一杯みたいな。顔をしていただろう。
こう私の頭の中で警鐘が告げているのだ、これは面倒事に巻き込まれるぞ。
基本的に自分という人間は面倒くさがりだ。行動力があることと言えば未知への発見や後は精々甘いものを食べたい時ぐらいのものだろう。
後は頭を使うことは嫌いじゃない、さっきみたいな推理ゲームは割と好きだ。
だけど、ここは違うと断るところだ。
そもそも違うものを違うと言って何が悪いのだ、本物の高校生探偵はそこの椅子に座っている女の子みたいな容姿をした男だと言えばいいのだ。
だけど、こんな目で見られたら
そうして、否定の言葉を口にしようとした――
「――冗談だよ、僕が巷で噂になっているらしい高校生探偵さ。名前は兎双創代、彼女は助手の月夜野さんさ」
「そうだったんですか!」
「誰が助手よ! 息を吐くように嘘をつかないでくれる!」
「え、違うんですか……?」
うっ、そんな裏切られたみたいな瞳で私を見ないでよ
視線を兎双君へと向けると、彼は笑みを浮かべたままコチラを見ている。
あ、これは何が何でも手伝わせようとしてる。
一体全体、何が気に入られたかは分からないがどうやらそこの探偵さんに気に入られてしまったらしい。
「……分かった。協力しましょう」
その言葉を聞いた彼女の表情は満面の笑みを浮かべる。
この表情を見れただけでも、よしとしておこう。
「クックッ、月夜野さんはお人好しだね」
「私がお人好しなら、この世界の半数ぐらいはお人好しになっちゃうわよ」
手にかけた扉から手を離し、私は兎双君の隣へと移動する。
「さて、ではお話を聞きましょうか。お嬢さん?」