第一幕 第四節 The sad lamb was caught by the liar
「2年B組、それが君のクラスだね」
そう言って、僕は彼女へと回答を渡す。
思い出したわけじゃないみたいだ、推察だけでここまで来れるなんて大した人だ。
僕、今は兎双創代と名乗らせてもらっているからその名前を騙っておくとしよう。
現在、僕はおかしな女性――月夜野さん――とのゲームに興じていた。
なぜ、僕がこんなことを言いだしたのかそれにはもちろん訳がある。
僕も二年生だ、それなのにこの部には部員がなんと僕一人。
よく部として認められているものだが、それももうそろそろ危ない。最低でも将棋部として成り立つためには二人はいる。
僕としては一応は先輩たちが作ってきたこの部を潰すのも惜しいので、とりあえず形だけでも将棋部の部員を募集してみたのだが誰も来やしない。
まぁ、僕が入部する頃にはすでに誰もいなかったけど。
この学校では入部者が誰もいない状態で一年過ぎるとその部は廃部になるという校則がある。
すぐに廃部にしないだけ、学校側は優しいものだ。
それは校内で一番目立たないところにひっそりと貼ってあるものが一枚あるだけだ。
もし、見つけられるような暇な人がいれば是非とも我が部に迎え入れようと考えていた。
この作戦がダメならダメで、適当な依頼人を捕まえて形だけでも在籍してもらえばいいと考えていたんだけど。
だけども、運命ってやつはイタズラなやつでおもしろいお客を運んできてくれた。
「そう、じゃあ始めましょうか。このゲーム、決着をつけてあげる」
「是非ともお聞かせ、願おうか」
月夜野 千里、我が将棋部に欲しい人材だ。
そして何より僕が求めていたものにピタリと当てはまる。
彼女のような人をまさに逸材と呼ぶに相応しいのだろう。
「まず、今回の話。確認だけど、これはこの学校で起きているということでいいのよね?」
「そうだとも」
「ならこのB男、これはあなたのことね。A子は私ね」
そう、彼女の推論は全て当たっている。
今回の予知能力者とはずばり僕のこと。もちろん、僕にはそんなスキルはあるはずもない。
そう、しかし僕は彼女のクラスを言い当てることができた。なぜか?
「兎双君と私は確かに一度、出会ったことがあるのね。私は覚えてないけどあなたは覚えていた」
そう彼女とは出会ったことがある。もちろん、彼女と同じクラスだったこともないし出身中学も違う。
ついでに付け足すなら、僕は彼女のストーカーでもなければ一目惚れしたわけでもない。
「さて、それじゃあどこで出会ったか。そこに注目しましょうか」
彼女はきっと自分でも意識していないだろうが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「まず、私たちが出会うにはそれこそ何か特殊なイベントでもないと出会わないわ」
「ほう、それで」
「ええ、だから私たちは出会ったのよ。イベント――部活集会でね」
「ほう、そいつはまたおかしな話だね。君は部活に所属していないんじゃなかったかな」
だけど、彼女はの中ではどうやらすでに全て繋がっているらしくその笑みは消え失せることはない。
「えぇ、そうね。一年の時も部活に所属してなかった。だけど、一度だけ頼まれて代理で出たことがあるのよ。友人の頼みでね」
「なるほど、だけど君の話、それは僕が一年生の時に何かの部活に入ってなければならないはずだよ」
「部員募集の張り紙に書いてあったわよ、部長名。去年も同じ場所に貼ってあったじゃないんでしょうか」
「去年も見たのかい?」
「いえ、そういうわけではないわよ。その反応だとどうやら当たりみたいね」
鎌かけまでこなすとは本当に優秀だね。
「代理とはいえ、部活集会だし名前とかはその時覚えられたのね。そしてクラス変えの張り出しから私の名前を探し出した。珍しいしね、私の名前」
彼女は全ての真相を語ると同時に、息をつく。
「真実はこんなところ。これでゲームは終わりね」
「素晴らしい推理だったよ。君は探偵に向いているね」
「そう、ならゲームは私の勝ちね。それじゃあ、報酬として貰いたいものがあるわ」
「何かな? 叶えられる範囲だったら叶えようじゃないか」
「――兎双君の本名」
その時の僕は、少しだけ。ほんの少しだけど動揺があったと思う。
「それはお断りしようか。なにせ、僕は――嘘つきなものでね」