第一幕 第三節 おやつにミステリーゲームはいかが?
兎双君はゆっくりとソファに腰を沈めると、コーヒーを一口のみ喉を潤すと語り始める。
「僕の友人から聞いたのだが、とある女子生徒と男子生徒の話だ」
私は、未だ開けていない缶コーヒーを一度自分の足元へと置くとメモ帳を取り出す。
こういうのはいかに情報をまとめるのが大事だからね。メモは必須よ。
「ふふ、準備はいいかい?」
「もちろん、いつでもどうぞ」
「では、語らせていただこう。これはまた世にも不思議な話でね、春先にあった話なんだがとある女子生徒――この場はA子さんとでもしておこう。そのA子さんはあるとき一人の男子生徒と出会うんだ。こっちはB男君でいいかな。A子さんはB男さんと面識は全くないんだけども、B男君は彼女のクラスをピタリと言い当ててしまうんだ。B男君に私を知っているの?と聞いても彼はほぼ初対面だと答えるのさ。いやはや、なぜB男はA子さんのクラスをピタリと言い当ててしまったんだろうね」
「B男君がA子さんのストーカーだからで、ファイナルアンサー」
「もし、そうなら僕は友人を警察へと突き出さないといけないね。冗談はほどほどにね」
やっぱりダメだったか、しかしこれだけで推理しろというのはあまりにも無理があるんじゃないか。可能性は山のようにある。
さて、どうやって可能性を潰していこうか。
これだけの情報しか与えないってことは、まだ隠されている情報があるはずだ。
「兎双君、私の質問に答えてくれる?」
「……もちろんだとも」
なるほど、つまり彼に質問をしてその反応で情報を増やしていくのか。
ウミガメのスープによく似ている。
しかし、いくらなんでも情報が少ない。
勉強ができるのと、頭が回るは違う。
頭が回る人間というのは容量のいい人間のことだ。
そういう意味では、私は自分でもそこそこ容量のいい人間だと思ってる。
とりあえず、兎双君のセリフを整理しておこう。
私は一言一句聞き逃さずに書いたメモを広げながら、少し頭を悩ませる。
① これは兎双君の友人の話だ。
② 登場人物はA子とB男。それ以外がいるかもしれないが憶測の域をでない。
③ これは春先の話でA子はB男との面識はなかった。そしてB男の方はほぼ面識がないと。
さて、とりあえずこの三つかな。
「じゃあ、兎双君。この話はこの学校で実際にあった話?」
そう、まず気になる点は兎双君友人という部分だ。
まぁ、経験談なのだがこういう時はだいたい本人の話だったりするのだ。
もし、本当に友人だったとしてもそれはつまりこの学校の友人である可能性も高い。
初めの質問の回答から見ても、おそらく本当にあった話なのだろう。
つまり、この質問の意味するところは簡単なのだ。
「そうだよ、よくわかったね」
兎双君はなんでもなく答える。そう、それならだいぶ簡単になる。
私が持っている情報がそのまま使えるということだ。
今聞いたばかりの情報を、メモ帳の上でペンを滑らせる。
とはいえ、これである程度までは可能性を絞ることはできる。
二人の面識はほぼ、B男君がそう言っている。
なら、ほぼとはどういうことだろう。
ほとんど、というのは人によって当然度合いが違ってくる。廊下ですれ違う程度なのかはたまた一度会っただけなのか。
少し視点を変えて考えてみよう。
重要なのは、なぜB男君がA子のクラスを当てることができたか。
天王寺高校の生徒はAからGまでの全7クラス。
当てずっぽうでも七分の一、サイコロを振って狙った目を出すより少し難しい。
普通はクラスが違うと他のクラスのことまで把握するのなんてほとんど無理だ。
偶然知った、というのが適切だがそもそも他のクラスと一緒になって授業をする機会は少ない。
男子と女子ともなればなおさら。
ほとんど、をつけたのはそれをやってのける新聞部の友人がいるから。
とりあえず出た結論としては、B君はA子さんに一目惚れ。気になる女子生徒のことを色々調べているうちに会話する機会を得て調子に乗っちゃった。
ないな、一目惚れとか乙女か。ふざけんな。
そろそろ兎双君に別の質問でもしてみようか。
「兎双君、A子は何か部活に入っている? もしくは委員会に所属してる?」
「君は?」
「両方ともしてないわ」
「そうか、ならきっとA子もしてないね」
あれ、あんまり重要な情報じゃないのかな。いかにも今決めたって感じ。
「B男はどうなの?」
「彼は部活に所属してるよ、しかも部長だ。委員会には所属していないね」
こっちは決められていた情報みたいだ。
「A子とB男の証言が矛盾してるのよね、ほぼとはいえB男は相手のことを知っていたんだし」
情報を整理して、意識を思考の海へと沈めていく。
A子とB男――食い違う二人の話――委員会、部活動――春――そこで私の脳内に閃光が走った。
あぁ、そういうことだったのか。
今までの情報が一つ、一つ繋がっていくのが分かる。
そして兎双君へと最後の質問を送る。
「ねぇ、兎双君」
「なんだい、月夜野さん」
私の顔にはどうやら答えが分かったと書いてあったらしく、兎双君も満足そうに笑顔になっている。
「それじゃあ、私のクラスを答えてもらってもいいかしら?」