第一幕 第二節 幽霊の正体見たり美少年
「やぁ、落ち着いたかい?」
あのあと、彼が狼狽した私をなんとか落ち着けてくれた。
今は彼の勧めるままどこから取り出したか知らないパイプ椅子へと腰を降ろし、ミニ冷蔵庫から取り出された缶コーヒーを貰った。
幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うけれども、まさかこんな可愛い少年が正体とは。
いや、でも実際心臓が早鐘を打つとは思わなかったよもう、忘れられないドキドキだったね。
ハッ!? これが恋!
「……そんなわけあるか!」
「そ、そうかい。まだ落ち着いてなかったか」
しまった、勘違いさせてしまった。
「……すみません。急に大きな声出しちゃって。大丈夫です」
謝罪の言葉を告げると、彼はいいよと笑顔で許してくれる。
見れば見るほど女の子にしか見えない。
綺麗や美人と言った感じではなく、可愛らしいや愛らしいのような顔立ちだ。
中性的な身体と顔と合わさって、少し着るものを変えればどこからどうみても女の子にしか見えないだろう。
透き通るように白い肌、先程までつけていたウィッグは外しており今は少しだけ長い黒い髪になっている。
今の状態でも本人の口から、男性だと聞かされなければもしかしたら私は女の子と勘違いしていたかもしれない。
彼はソファへと身を沈め、私と同じように缶コーヒーを飲んでいる。
「さて、本日はどういう御用かな。お嬢さん」
まさかお嬢さんなんて呼ばれるとは思わなかった。
自分より年下にお嬢さんと呼ばれるのも中々ない経験だ。
「えっと、実はですね。今回はその幽霊の正体を探りに来ていたんですよ」
「ほう、幽霊とはまた眉唾っぽい話だね」
私自身もそう思うのだが、なにせ気になって仕方がないのだ。
だけど、それは言わないでおく。
「しかし、幽霊ね。僕は長いことここを使っているけど残念ながら見たことはないよ」
「そうですよね、こうして普通に使ってるわけですし。えっと、将棋部の部員さんでいいんですよね?」
「そうだよ、将棋部部長。そういえば自己紹介がまだだったね。初めまして、僕の名前は兎双創代」
「兎に双子の双、物を生み出す創作の創に、依代の代。どうぞよろしく。お嬢さん」
「お嬢さんは止めて。同級生みたいだしね。私の名前は月夜野 千里。月に夜、野薔薇の野に数字の千に里帰りの里。よろしく」
なぜ彼と同級生なのが分かったかと言われると、上履きの色が一緒だから。
この学校だと学年ごとに色が決まっている。
兎双君は私のと同じ色だから同級生だということだ。
それは失礼と兎双君は一言謝罪の言葉を口にすると続けて口を開く。
「月夜野さん、ズバリその幽霊の正体って言うのは――」
「――兎双君のことよね。察しはつくわ」
兎双君は心底驚いたような顔をしているけど、どうしてだろうか。
さて、実は私としては非常に無念ではあるのだが今回の幽霊の話にはおおよその推測がついていた。
「幽霊部員というか幽霊部みたいな扱いの将棋部、そこにこんな少年がいれば噂が一人歩き。あっという間に尾ひれがついて見事将棋部の美少女幽霊の出来上がりね」
そう、この手の話ではよくあることなのだ。噂が大きくなったが見てみると大したことではなかった。
聞いて極楽見て地獄とまではいかないが、その結果ががっかりなことになることは多い。
はぁ、無駄骨かー。
なんというか気合を入れて調べてみてはいいけれど、中身がこれじゃ手応えも何もない。
帰りに甘いものでも食べて憂さ晴らしでもしよう。
「ねぇ、月夜野さん」
「はい、なんです?」
私の思考はもう、帰りの甘味処へと注がれていた。
たまにはみたらし団子食べたいな、そうだなそうしよう。
「少しだけゲームをしない?」
「ゲーム?」
「そう、ゲームさ。ただの推理ゲームさ」
私の意識はすでに兎双君へと注がれていた。中々に面白そうだ。
少し頭の中で迷ったが、大した時間が取らないだろうと高をくくるとゲームを承諾した。
頭の体操にはちょうどいい、6限目は桜を見ていて頭も使ってないし少し使っていないぶんでも消費するとしよう。
「今から話すのはとある予知能力者の話しさ。」