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嘘つき探偵兎双創代  作者: 千風紅葉
第一幕 天王寺高校の噂
2/7

第一幕 第一節 そうして月夜野 千里は幽霊と出会う。

 世間一般では学校の勉強は社会で役に立たないなどというが、私はそうは思わない。


 そもそも世間一般の常識も持たないまま社会に出るほうが大問題だろう。


 よってそんなことを言うのは大抵はテストの点数が芳しくない人の言い訳だと思う。


 聖人君子のように偉そうなことを言ってはいるが、所詮はただの人間だ。


 いくらご大層なことを並べ立てても、結局言い訳にしかならないのだろう。


 かの有名なウィリアム・シェイクスピアの作品『お気に召すまま』の台詞にこんなものがある。


 愚者は己が賢いと考えるが、賢者は己が愚かなことを知っている。


 つまり、自分のことをバカだとはっきりと理解している者は知恵者だと言っているのだ。


 思うところ、これはつまるところ向上心の問題などではないかと私は思う。


 人間というものはある程度でどうしても妥協してしまうものである。


 だが、自分を愚者だと考える人間は賢者になろうと様々な知識を身に付けんとする。


 よって、人間は常に愚者であるべきだと私は断固として言いたい。


 さて、ここまでこうして語ってきた私だがなぜこんな話をしたのかをお聞かせしよう。


 花の命は短い、飛花落葉、生者必滅。


 時は常に前へとその秒針を刻み、戻ることはない。


 なら、私が今するのは時の流れに流されて失ってしまうものをしっかりとこの目に焼き付けることではないだろうか。


 長々と言い訳していたが、さてここらで本題に入ろう。


「はい、じゃあ今日の授業はここまで。先生達は今日は会議だからこのまま解散して」


 呆けて外の桜を眺めていたら、いつの間にか授業が終わっていた。


 綺麗な花には棘があるというが、まさか桜にも棘があるとは思わなかった。


 しかし、よくよく考えてみると桜もバラ科である。まさかその棘が時間を奪っていくとは思いもしなかったが。


 美しいは罪。なるほど、それなら桜は差し詰め時間泥棒と言ったところが。


 全くもって上手くもない。


 ただ、唯一救いがあるとするならば真面目な性格幸いしてノートだけはきっちりと取ってあるということだ。


 そもそも真面目なら授業をちゃんと聞いているだろうと言いたいのだが、こう見えても成績優秀な私は授業の予習ぐらいバッチリしている。


 というか、予習のしすぎで二年生の過程が全て終わってしまうレベルだ。


 何度も同じ話をされると流石に欠伸の一つも出てしまう。


 それを抑えるために外の景色を眺めているのが罪というなら、声を高らかにして横暴だと言ってやりたい。


 そんなくだらないことを考えながら、私は授業の道具を片付けていく。


 クラスのみんなも先生が教室から出ていくのを確認してからすぐに騒がしくなる。


 それもそうだ、現在は四月。旧暦なら卯月だ。


 四月の誕生花といえば忘れな草がある。実はこの花にはとあるドイツの逸話があったりする。


 恋人同士の騎士と乙女が川辺を散歩してたら乙女が青い花をみつけてそれを欲しがったそうな。


 恋人の願いを叶えるためI can flyしたわけだが、哀れ男は予想以上に川の流れが速かったせいで花を掴んだはいいけど流されてしまいました。


 最後の力を振り絞り、騎士は乙女に花を投げます。そしてこう叫ぶのです。「私を忘れないでくれ」


 この話を聞いたとき、こいつは阿呆だなと真剣に思った。


 なぜ、鎧を脱いで飛び込まなかった。


 そもそも鎧着たま水に飛び込んだりしたら錆びたりするんじゃないのか。


 もしかしてその程度の後先も考えれなかったのかと。


 心底私は言ってやりたい。


 恋は盲目と言いはするが、ブレーキをアクセルと間違えて全開で踏み込んじゃった感じじゃないか。


 とは言っても、私は別段その時代について詳しいわけでもない。


 もしかしたら、騎士に取って鎧とは誇りだったのかもしれない。


 それを脱げと言われたら、確かに無理な話だ。もし、そうだとしたら私は謝っておくとしよう。ごめん。


 さて、非常にどうでもいいことだけど確認作業は大事だ。


 なので、一つ一つ確認していこう。


 私は現在、高校2年生へと進級した。


 花の女子高生、そのもっとも楽しい時期だと言えるかもしれない。


 1年生のように緊張もせず、3年生のように受験やら就職やらに必死にならなくてもいい。


 まさに夢のような時期だ。


 常々思うのだが、そもそも学生という身分だけでそれはもうゲームでいう不正行為(チート)みたいなものだと思う。


 しかも社会がそれを認めてるのだから公式だ。公式チートである。


 そういうわけで、こうして私も学生の特権というやつを有難い気持ちで受け入れるばかりである。


 しかしそんな公式チートがあったとしても、別段これといって何か劇的に生活が変わるようなことはなくいつも通り学生生活だ。


 もし、強いて小さな事柄をあげるならば窓側の席になったぐらいだろうか。


 ここからは校庭が一望でき、そしてついつい美しい桜の木に目を奪われてしまう。


 中々の立地だ、悪くない。


 だが、つい時間を奪われてしまうのはいただけないな。


 天気もいいし今日は帰りにどこかに寄っていこうかと悩んでいると、後ろから手が伸びてきてムニっと擬音がつきそうなほどに胸を鷲掴みにされた。


「だーれだ」


「美沙、今すぐやめないとその手二度と使えなくするよ」


「ちょ、冗談。冗談だってば千里」


 後ろから伸びていた手は私が予想以上に声のトーンを低くして注意したのが功を奏してかすぐに胸から手を離してくれる。


「昔なら可愛い悲鳴をあげて、照れてたのに全く可愛くなくなったね」


「そりゃ一年以上も同じことされれば私も慣れるわよ。全くいい加減にしなよ」


 私の胸を鷲掴みにしに来たのは、北小路きたこうじ 美沙みさ。この天王寺高校で友達になった一人だ。


 髪を茶色に染めており、ショートヘアー。傍から見ても可愛い部類に入る女の子だ。


 彼女とは一年ほどの付き合いになる。去年ちょうど今の時期ぐらいに彼女と知り合いになった。初めは席が隣だったから話すようになったのがきっかけだ。


「それでなんのようなの?」


 彼女は獲物が釣れた漁師のごとく、口元を釣り上げている。


「あぁ、実はちょっと面白い噂を耳にしてね」


 彼女は口を私へと近づけると、小さな声で言葉を囁く。


 それはまるで人を誘惑する悪魔、この場合は小悪魔のほうが表現的には近い。


「……実はこの学校の七不思議でさ、将棋部に幽霊の美少女が出るらしいんだよ」


「……ゆ、幽霊?」


 幽霊とはまた眉唾っぽい話を持ってこられたものだ。


「そう、幽霊。見た目はとても可愛らしくて可憐で目を見張るほどの美少女らしいよ」


 それはまたとんでもない話だ。美少女などと名のつく人類はこの世界には中々いないだろうに。


 そもそも美少女の基準というものがわからない、どこからどこまでが美少女でどこからが違うのか。


 小説、主にライトノベル方面でよく使われていると思うのだが私の中の美少女のレベルは既に傾国の美女レベル。中国四代美人だ。


 沈魚、落雁、閉月、羞花美人と、こう並べてみるとその伝えられ方して相当美しかったのだろう。


 いや、正直ごめん。これに勝てるのは確かに早々いない気がしてきた。


 うわっ……私の美少女ハードル、高すぎ……?


「その子は、いつの間にか貴方の後ろに回り込んでいて声をかけてくるんだって」


「そ、それで?」


「その美少女の声はまるでセイレーンのように美しく、男でも女でも魅了してしまうんだ。そして、その声を聞いて最後振り返ると――」


「ふ、振り返ると……?」


 私はゴクリと喉をならすと、彼女は唇をニヤリと歪ませる。


「――その美少女に魂を吸い取られてしまうのよ!」


「きゃああああああ!」


 私は椅子が倒れそうになるぐらい仰け反てしまい、慌てて体制を立て直す。


 それを見て、美沙はお腹を抱えて大爆笑である。


「あはは、千里は本当におもしろいね。全く、今時こんな話が怖い子なんてそうそういないよ」


「べ、別に怖いわけじゃないもん。急に大きな声出されたから驚いただけだもん!」


 私は自分でそう言って否定するが、これがあまりに無意味なものだということは自覚がある。


 どうしようもなく、私は自分で怖がりだということを自覚している。


 怖い話を聞いたならば、首を引っ込めた亀の如く動けずにただ縮こまっている自信がある。


 ただ、そういう話を聞いてもどこかで冷静な部分は働いていてだからこうして色々と考えることができる。


 これはジェットコースターにスリルを求めるのによく似ている。


 そして、何より自分自身で欠点を上げるとするならば、これともう一つある。


「いや、じゃあもう一つ怖くない話を教えてあげよう」


「怖くない話?」


 美沙はひとしきり笑った後に、手帳のようなものを取り出しペラペラとページをめくっていく。


 そこにはきっと学校の噂話や都市伝説。そんなものが山のようにメモされているのだろう。


 彼女は所謂、そういうもののマニアなのだ。もしくはオタクと言い換えてもいいかもしれない。


 都心伝説マニア、怪談オタク。そういう人が怖がるものや未知の物などの噂を集めては私へと情報をリークしてくれる。


 そうして私が怖がる様子を見て楽しむのもいつものことだ。


 その行動力はと言えば、彼女が所属している新聞部の一部を使ってコーナーを作ってしまうほどだ。


 彼女はお目当てのページを見つけたのか、その手帳から目を離さずおそらく書いてある通りのことを読み上げる。


「この学校にはあらゆる難事件を解決してくれる、高校生探偵がいる。なんでも分かることは将棋部の部員でその容姿や学年は一切の謎。わかるのは男性ってことだけらしい、って書いてあるね」


「高校生探偵ね、バーローとかいう人なのかしら」


「もし、そうならその子は今頃小学生ね」


 彼女の情報を話半分ぐらいに聞き流しながら、私は今日は行く場所を既に決めていた。


「おや、なんだかそわそわしてるね。何か用事でもあったの?」


「えぇ、少しね。というわけで今日はちょっと帰るね」


「あぁ、それは引き止めて悪かったね。じゃあ、また明日」


 彼女とそう言って別れを済ませると、私はすぐさま教室を飛び出す。


「将棋部の幽霊、その正体見破らせてもらうわ!」


 私のもう一つの悪い癖、それはその怖い話の真相を思わず確かめに行こうとしてしまうことだ。


 矛盾していると私はつくづく思う。


 だが、気になって仕方がないのだ。怖いもの見たさという言葉があるようにどんなに怖くても好奇心には叶わないのだ。


 夜中にこっそり家を抜け出したことなど数知れず、色々と危ない橋を渡ってきた自信はある。


 そのおかげで気配を消したり、足音を消したりして動くには得意だったりする。


 将棋部の部室の場所は幸い知っていた、目立たないように一枚だけ貼られていた部員募集のチラシに書いてあったからだ。


 第二研究室に向かう途中、ふと窓の外を見ると生徒会のメンバーがいた。


 あれは生徒会長と、副会長二人だな。


 三人とも一対一で話をしたことはないが、その噂は色々と聞こえてくる。


 女性にして生徒会長、その実力は留まることを知らずあっちへこっちへ八面六臂の大活躍。


 まさに完全無欠、とまではいかないけども教職員の方々からも期待されているほどだ。


 お次は副会長の二人組。


 片方はおとなしめのメガネ君。優しい笑顔と正確な仕事が売り。


 成績も上々、まさに絵に描いたような優等生。


 会長が傍にいるせいか、見劣りするものの中々優秀な人材だと思う。


 もうひとりは、髪色が茶色の男の子。


 イタズラっ子みたいな笑顔が売り、多くのコネクションを持ち彼がいるだけで場の雰囲気が盛り上がるというほどの逸材。


 さて、ここまでは全て美沙から聞いた話である。


 彼女の情報網は一体どこと繋がっているのか、私の中の一つの謎である。


 そんな生徒会長たちも忙しそうだ、少し目を離した瞬間にはいなかった。


 やれやれ、春だというのお忙しい。


 とはいえ、新入生の歓迎とか委員会の集まり。後は部活集会と色々準備することがあるのだろう。


 ちなみに、私はどこの委員にも所属していないし帰宅部だ。


 正直、誰かに頼まれない限り面倒なことは引き受けない主義だ。


 私の基本的な行動原理はこうして不可解な噂の正体を暴くとき、後は甘いものを食べたいときぐらいしか動かない。


 おや、そんなくだらないことを考えていると文芸棟の第二研究室へとついたみたいだ。


 中々侮れないな私の記憶力。


 この学校は文芸棟と理数棟と呼ばれる建物がそれぞれある。


 無論、これは生徒が勝手につけたもので本当は第一棟、第三棟と呼ばれている。


 なぜ、そんな呼ばれ方をしているかと言われるとそれぞれの棟に授業で使う際の実験室などが固まっているからだ。


 理科室なんかはもちろん理数棟、歴史の資料室や現国の資料室などは全て文芸棟へと保管されている。


 この学校を上空から見ると、王という時によく似ているらしい。


 王の真ん中の部分が普通棟、私たちの教室などがある棟だ。上が理数棟、下が文芸棟と分かれている。


 というわけで、私は足音を殺しながらゆっくりと第二研究室の前まで来ていた。


 ここでは持ち運びが面倒な資料などが大量に置かれいるという話だ。


 私はゆっくりと扉に手をかける。


 ……空いてる?


 扉の隙間から中を覗いてみるが、誰もいない。


 やっぱりデマだったかしら?


 大して期待もしないまま、私はその第二研究室扉を静かに開けゆっくりと入る。


 キョロキョロとあたりを見回しても、あるのは大量の資料だけだ。


 ん、でもなぜか女性服がチラホラと見えるわね。


 それに、よく見ると資料だけじゃなくてソファや小説、後は漫画なんかも置いてある。


 誰かが私物化としてるな、この部屋。


 周りを少しだけ物色しようかと考えていたとき、うっかりと近くにあった缶ジュースを蹴ってしまう。


 しまった!中身は入ってないことを祈ろう。


 どうやら私の祈りは通じたらしく、缶ジュースは幸い空だったようだ。


 ホッと胸をなでおろした瞬間だった。


「誰だい?」


 そんなハスキーボイスで後ろから声をかけられる。


 私はドキリとして、すぐさま後ろを振り返るとそこには少女がいた。


 小さな顔、スラっとした足、背丈は私と同じぐらいでそんなに大きくない。


 何より綺麗な髪をしていた。長くて美しい。まるで偽物みたいな金色の髪。


 そして何より目を引くのが彼女がスカートではなく、男子生徒用のズボンを履いていたことだ。


「ゆ、ゆ、ゆ」


 あぁ、これが本物か。


 私の人生も短いものだった。


「ゆゆゆ?」


 彼女は私の顔が青ざめていくのを見て何か嫌な予感がしたらしい。


 そしてその予想通り、私は声を上げた。


「幽霊だああああああああ!!」

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