【2】egoism
「お前、音楽好き?」
と、彼に質問された。
初めての彼からの質問は、初めて会話をした日の放課後。
教室を出ようと、彼の席の後ろまで来た時。
「うん。好きだけど。何で?」
私は何を隠そう、音楽オタクだった。
J-POP、洋楽、クラシック。
果ては音楽機器に至るまで、それの事に対しては誰もが吃驚する程のマニアっぷり。
表に出している気は全く無いのだけれど。
「そんな顔してる」
彼はそう言って、ニカッと笑って見せた。
次の日、その次の日、そのまた次の日。
相変わらず彼は基本的に素っ気なかった。
彼も音楽愛好家らしく、それ系の話題を出せば食いついてきてくれるものの、いまいちフレンドリーと云う感じには成りきれない。
それでも、私は彼に付きまとった。
理由?…解らない。
只、直感で"自分と同じ種類の人間だ"と思ったから。
なんとなく、彼の事が知りたくなった。
―恋?…違うよ。
「トウコちゃんさぁ、何で奴に付きまとうかなぁ!?」
「え?…何でって言われてもぉ」
放課後の教室。
彼に最初に近づいた時に、忠告してきた女子がイキナリふってきた。
「結構良い奴と思うよ?顔格好良いかもだし」
その子はうむと唸って、少し黙った。
やっぱり、彼女の目から見ても木貫君は格好良いらしい。私の目は腐ってはいなかった。
「…でも奴さぁ、マジヤバいんだって!…ヤバいっつーか、キモい」
彼女は、妙に真剣な顔でそう言った後、大袈裟に身震いして見せた。
「奴ねぇ、人の心が読めんのよ…考えてる事、ズバズバ言い当てちゃうの。キモくない!?」
語尾が無駄に上がった。…超耳障りって感じぃ。
「へぇ…本当だったらキモいって云うか私的に恐いわ」
でしょー!?と彼女は満足気に私の肩を叩いた。
彼女の話を信じる気は無い。
現実的に有り得ないし。
それに。
私は基本的に誰も信じないから。
…それよりも。
彼女との会話が、彼に。
聞こえていただろうか。
聴いていたのだろうか。
それとも、シカト?
離れた場所にある彼の席を見ると、既に帰宅したらしく、無人だった。
少しホッとした。
同時に、今の会話が少しでも彼の耳に入らなかったか心配になった。
彼のヘッドホンが、木貫君の為に、―いや、私にとって都合良く役に立っていれば良いと、醜い事を願っていた。