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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
思い出に… 【R15】
93/139

狼 ―後―

「駆け落ち?」

(えん)っ!!」

部屋を出ようと襖を開けた時だった。意地悪い笑みを浮かべた炎が目の前に立っていた。

(せい)、逃げろ!!!!」

(せい)は炎の背後についていた男に押し倒されながら清に叫んだ。

怯えきった清は脚を震わせてその場に崩れる。

「動けないの?清」

炎が清に手を伸ばす。

このままだと―

「清!!!!!!!」

びくっ

清が顔を上げた。狼に涙目を向ける。

「逃げるんだ」


逃げてくれ


清の震えが止まっていた。そして、立ち上がると窓に走った。

開け放たれる窓。

窓枠に清は足を掛ける。


「清、戻りなさい。狼が死ぬわよ」


それは命令。

清が動かなくなる。

駄目。

絶対に止まっちゃ駄目。

「清!早く逃げろ!!!!っぐ」

「煩い」

炎が片手で狼の顔を畳に強く押し付けた。そして、男に目で指示を出すと狼は髪を掴まれ引っ張り上げられる。

「うっ!!!!」

爪先立ちで狼はなんとか堪える。悲鳴をあげたら清の意志が崩れる。

「せ…い……にげ…ろ」

「清、狼を苦しませたいの?」

早く逃げて。

「アナタはまた大切な人を傷付けるの?」

炎の言葉は清の心を突き刺す。

「あ…ぅ……お…れ……は…」

清の手が窓枠から離れ、脚がガクガクと震える。

「清…駄目…だ…聞いちゃ……いけ…ないっ!!!」

「いい子…そして、愚かな子」

狼の悲痛の叫びは虚しく炎の腕は清の首を捕らえた。そのまま清は炎に部屋へ倒される。

「っう」

頭を打ち付けた清は呻く。

「清!」

再び倒された狼は清に手を伸ばした。

掴まなきゃ。清を掴まなきゃ。

「清、アナタが狼をたぶらかしたのね」

「違う!僕が清を」

「狼には訊いてないわ」

炎は狼の手を蹴ると清を跨いだ。炎の重みに清が悲鳴をあげる。

「っぁあああ!!!!」

「ふふふ、痛い?さっき沢山虐めたところが痛む?」

「清!炎、やめろ!!」

「煩いって言ってるでしょ」

炎が狼を睨むと男が狼の口を塞いだ。

狼の声が消される。

「アナタが狼をたぶらかしたのでしょう?」

炎は着物をはだけさせ、清の傷付いた体を露にした。

「……お…れ……が…」

「アナタがたぶらかした……そうなの?」

濡れたままの髪を漉き、額を撫でる。その手は次に頬を撫で、首に掛かった。

「教えて。悪いのは誰?」

「……っ!!」

炎が首を締める。清が苦しそうにもがく。

清が殺される!

「んー!!!!!」

狼が手を必死に伸ばすが届かない。畳を叩くだけに終わる。

「悪いのはだぁれ?」

「あぅ……うっ……お…れ…です…」

「よく出来ました」

ガリッ

炎は一番深い腕の傷を引っ掻いた。傷口から鮮血が滴る。

「―――!!!!!!!!」

声にならない絶叫。

耳を塞ぎたいのに塞げない。

やめてくれ。

聞きたくない。

清が…壊れる。

かくっと清の頭が傾いた。

「あら、気絶しちゃった。じゃあ清、私の部屋に行きましょうか」

炎は清を抱えると狼を見下ろした。

「不様な姿ね、狼。当分はこの部屋から出られないから。アナタの軽率な行動で悪い子の清は罰を受けなきゃいけないのよ。小兎一匹守れないなんてオオカミが廃るわね」

炎が部屋を出て、男は狼の腹を蹴って後ろについていった。

「ぐっ…がはっ」

胃が唸る。

僕のせいで清が

何も行動を行わなくても結局は…

しかし、清があんな風に傷付くことはなかった。

少なくとも僕の前では…

「僕はどうすれば良かったんだ!」

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