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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
はじまり
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嘘と真(2)

「洸、もう僕にあんな頼みごとやめて欲しいな」

千里(せんり)は自室でベッドに寝転び本を読む洸祈(こうき)を睨んだ。

「何か問題があったのか?」

それに洸祈は本から目を離さずに答える。

「おおあり。起きたらあおに怒られる!」

「起きたらって、睡眠薬でも盛ったのか?」

「うん」

洸祈は軽く驚きながら本から目を離し、机の上に置いてある小型機器をいじって椅子に座る千里を横目に見た。それは洸祈が作ったクロスチップと呼ばれる5センチ四方の物体で、いわゆる爆弾。

「自業自得。あいつ怒ると怖いんだよな」

チップを弄りながら脚をだらしなく机に乗っけている千里を鼻で笑う。

「知ってる。ここに来てから既に一度怒られてるから」

「何したんだ?」

勇者だな。と、洸祈はベッドのそばにある棚に置いたコーヒーの入ったカップを持ち上げた。

「あおが何故か僕のベッドで寝てたから起こそうとしたんだよ。そしたら、何処に隠してたのか一瞬でライフルを突きつけられたよ」

(あおい)の寝付きは最悪だからな。それを自覚してないからもっと怖い」

「しょうがないからあおの寝込みを襲ってみたら」

洸祈は千里の問題発言で飲みかけていたコーヒーに噎せた。

千里はそんな洸祈にお構い無しで喋る。

「瞬時に起きて投げ飛ばされた挙げ句に拳銃をぶっぱなされた」

ライフルじゃなくて良かったな。

なんて洸祈は思いながら呼吸を整えた。

「襲うどころじゃなかったかも。銃は問題無いけど最初の背負い投げは効いたよ。モロに食らったから」

溜め息を吐く千里は翡翠の瞳を細めた。痛くない背中が痛むようだった。

「それで?ちゃんと言ったことやってくれた?」

「やったよ」

頬を可愛らしく膨らませた千里。

「あおは気付いてないみたいだったけど」

「あんがとな、ちぃ」

「だーかーら、千里だって」

本に集中していた洸祈から千里は本を奪う。

「いいだろ、ちぃで」

「良くない!」

「はいはい。それ近づけんなよ」

洸祈は意地になっている千里が掴んでいるチップを目線で示した。

「大丈夫。ここ洸以外の人いないし」

入室者待ちのこの部屋は洸祈の一人部屋だ。

一応入室者待ちになっているだけでこの部屋にに誰かが入ることは絶対にない。

それらしい形式を保っているだけだ。このことは洸祈しか知らない。

千里は知らずに授業をサボるのにこの部屋を使うのだ。

「だから、これからは千里ね」

「無理な条件だな。俺はこの呼び方が気に入ってるんで、ちぃ」

明らかに不機嫌になった千里はチップの安全ピンを外した。

「待てよ。その威力は半径2メートル以内の物をこっぱ微塵にするんだ」

「だから大丈夫だって」

やんわりとした笑顔を見せる千里は悪魔だ。

彼はチップを持った手を振り上げた。

「そうだ、良いこと教えてやるよ」

「?」

「最近、葵が言ってたけど、風系魔法の探知速度をかなり上げることができたらしいぞ」

つまり、

「千里!!!!!!!」

その言葉と同時に洸祈の部屋のドアが凄まじい音を発てて開き、振り落とそうとした手が止まった。

「鍵閉めてなくて良かった」

洸祈はポツリと呟く。

「あお!!」

と千里がドアの方を振り向いた時には既にそこにいるはずの人物は居ず、千里の目の前に立っていた。

「これ、欲しい?」

葵は千里の額にライフルを突きつける。

「いらないよ」

相変わらずの笑顔で千里も抵抗した。


そんな二人がやり取りをしている間の洸祈の行動は早かった。

「えーっと、確かここに」

洸祈は先ほどカップを置いていた棚の引き出しを一つ開ける。

そこにあったのは、何枚かの幾何学な模様の入った長方形の紙。

「これだ」

洸祈は束から1枚抜き取るとベッド付近の壁に書いてある同じように幾何学な模様の中心にそれを叩きつけた。

「防御陣発動っと」

すると紙は青白い光を放って壁の模様をたどる。

たどり終わると何事も無かったように光は消え紙はヒラヒラとベッドに落ち、模様は消えていた。


その瞬間、惨劇は始まった。

一発の銃声。

千里が倒れたかと思えば…

「無理だよ~」

倒れていなかった。

洸祈の寝転ぶベッドに飛び乗った千里は無傷。

弾は千里からかなり外れたところにめり込んでいて、そこが青白く光ると弾は押し出され空いているはずの穴は無くなっていた。

「僕には無理だって」

葵の表情が険しくなっていく。

「やべ、キレる」

洸祈は読み掛けの本を閉じるとベッドから降りた。葵の気に触れないようドアへとゆっくりと近寄る。

「何処行くの?」

葵は視線を千里に注ぎながら言った。

「避難を」

洸祈はドアノブに手をかけ、押したが開かない。

「何で!?」

ドアの隙間から入り込むのは風。ドアに耳を当てると嵐のような風の音が聞こえた。

「ちっ、風で押してんだろ」

「うん。本当は千里が逃げないようにだったんだけど。洸祈には話があるんだ」

振り向いた洸祈をじっと葵は見詰める。

と、シリアスな雰囲気が流れている中、千里がそれを壊した。

「じゃあね。あお、敵を前にして他の事にきぃ取られてちゃいけないよ。1年生の時に習った基本だよ」

開け放った窓の縁に腰掛けていた千里は外へと身を投げ出した。

「千里!!」

葵は叫ぶ。

5階から千里は飛び降りた――ように見えた。

「おいおい」

二人はすぐさま窓から下を見たが千里が見当たらなかった。

「死んだ?」

「おい、いくらなんでもすぐにその言い草はないだろ」

親友への冷たい発言に洸祈は呆れるしかない。

「そうだよ」

『!!!!』

二人に降り注ぐ声。

上を向いた二人の目に写ったのは太陽を背に屋上に立つ千里だった。

「ここ最上階だったのか」

と改めて洸祈が呟く。驚いている洸祈を他所に葵は上に向けて拳銃を構えた。

「千里、降りてこい!!」

当然の如く葵は弾を撃つ。

「僕にはそんなもの効かないよ」

千里に向けて放たれた弾は、次の瞬間には洸祈と葵の間を微かな風と共に通り抜けて地面に向かって一直線にとんだ。

「諦めなよ、あお。僕の空間断絶魔法の前に銃弾は効かないよ。君達が被弾するよ」

「うるさい」

葵の顔が紅い。

「おい、葵。無駄だって」

キレた葵には兄の言葉でさえ届かず、彼は千里に向けてもう一発撃った。


「いっ」


ツンと刺す痛みと共に流れ始めたのは洸祈の血。

頬を押さえた彼は窓から首を引っ込める。


「あお!!」

千里はこの状況に目を丸めると、すぐに冷静になって葵を睨んだ。

「僕の魔法で君の銃弾は効かない。でも勘違いしていない?君が撃てば君に返るから問題ないとか考えているの?洸祈を殺す気?」

「そんなはずないだろ」

葵はかっとなって返す。

元はといえば千里が変なことをしたせい。

「ごめん。洸祈」

洸祈に葵は頭を下げる。

「いや、いい。ちょっと治療所行って絆創膏借りてくる。お前のせいでもちぃのせいでもない。だから、かっかすんなよ」

葵の頭を撫でると部屋を出た。



こうなることもあると予想していたのに千里に撃った。分かっていて撃ったのだ。

「くそっ。何なんだよ」

千里に眠らされて起きから、何かが引っ掛かってむしゃくしゃしていた。

「あいつ、俺に何しやがった」

誰も答えてはくれないはずだった。

「何にも」

部屋の入り口に千里が立っていた。

「何にもしてないわけないだろ!だったら何で…」

「何で?」

聞き返す千里の表情は堅い。

「『何で?』それが分かんないんだよ」

「洸に訊いてみたら?最後かもしれないから」

「何でここに洸祈が!?」

何で?何で?

「もう分かってるでしょ」

千里は葵の目を真っ直ぐ見ない。焦点をずらして葵を見ようとしなかった。

何で?

「何で?俺は……嘘だろ?」

千里は何も言わない。


おかしい。


まて、何を悩んでる?


何かがおかしい。



おかしくないなら



どうして、洸祈の顔を思い出せないんだよ…

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