陽季(7)
用心屋前。
由宇麻は会社や!と慌てて姿を消し、双灯の運転でそこまで送ってもらった洸祈は頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしました」
「迷惑だなんて。むしろいいものが見れて感謝よ」
一緒に乗ってきた菊菜がにこりと微笑む。
「陽季君の寝顔、ちゃんとカメラに納めたし」
「やよさん!」
「また来てくれるんでしょう?」
双蘭は洸祈にのし掛かり、人差し指で彼の頬をつついた。
洸祈はその手を優しく外して双蘭に向き直る。
「えぇ、琉雨と一緒に見に来ます」
「ボクチャンはー?」
「旦那様、杏ちゃんも一緒にです」
「うーちゃん大好きっ」
遊杏が琉雨に抱き付いている傍ら、陽季は洸祈を呼んだ。寝起きの彼の頭は跳ねまくりだ。
「洸祈」
「何?」
「ちょっと」
そう言って彼は車の影に洸祈を連れ込む。
本当に大切な話は立ち聞きはしない。それが、月華鈴のメンバーだ。
「んっ!!!」
連れ込むなり陽季は洸祈を車に押し付けてキスをした。
「あの時のお願いは聞けないよ」
「…陽季」
洸祈は下を向いて顔を隠す。
「俺はお前をそんな風にはさせない。絶対に…絶対にだ」
「でも…」そう言って上げた顔は複雑だった。
「無理なんだ。出来ることは進行を遅らせるだけ…あと何年…いや何ヵ月…何日もつか分からない。あとどれだけ俺でいられるか…」
「無理じゃない」
「どうして…!」
洸祈は悲痛な顔をする。
期待させないでと。
「原因は絶つことが出来る。たとえ過去が原因でもだ!…だから、話してくれ…心の整理が出来たら……つっかえつっかえでもいい…言葉が足りなくてもいい…俺が全部受け止めるから。お前の罪も何もかも…受け止めるから…………その時は俺の本当の名前教えてあげるよ」
「本当の名前?」
「月華鈴の人間は皆孤児なんだ…だから苗字を持たない。“陽季”は菊さんから貰ったもの」
陽季は洸祈の胸に顔を埋め、片手を心臓の上辺りに置く。
鼓動を確かめるように優しく乗せた。
「俺にはあるんだ。もういない親から貰った名前が……」
…―最愛の人に呼んでもらうって決めてたんだ―…
「陽季…」
「俺には洸祈が必要だよ」
否定は怖い。
拒絶は怖い。
「失いたくないんだよ」
喪失は怖い。
洸祈を失いたくないんだよ
「もう誰も」
「陽季………」
洸祈がゆっくりと陽季の頭を撫でた。
「大好きだよ」
「うん。今はそれがいい」
俺は洸祈を………………
俺は陽季を………………
イキタイ…