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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
思い出に… 【R15】
87/139

陽季(7)

用心屋前。

由宇麻は会社や!と慌てて姿を消し、双灯(そうひ)の運転でそこまで送ってもらった洸祈(こうき)は頭を下げた。

「ご迷惑をお掛けしました」

「迷惑だなんて。むしろいいものが見れて感謝よ」

一緒に乗ってきた菊菜(きくな)がにこりと微笑む。

陽季(はるき)君の寝顔、ちゃんとカメラに納めたし」

「やよさん!」

「また来てくれるんでしょう?」

双蘭(そうらん)は洸祈にのし掛かり、人差し指で彼の頬をつついた。

洸祈はその手を優しく外して双蘭に向き直る。

「えぇ、琉雨と一緒に見に来ます」

「ボクチャンはー?」

「旦那様、杏ちゃんも一緒にです」

「うーちゃん大好きっ」

遊杏(ゆあん)が琉雨に抱き付いている傍ら、陽季は洸祈を呼んだ。寝起きの彼の頭は跳ねまくりだ。

「洸祈」

「何?」

「ちょっと」

そう言って彼は車の影に洸祈を連れ込む。

本当に大切な話は立ち聞きはしない。それが、月華鈴(げっかりん)のメンバーだ。

「んっ!!!」

連れ込むなり陽季は洸祈を車に押し付けてキスをした。

「あの時のお願いは聞けないよ」

「…陽季」

洸祈は下を向いて顔を隠す。

「俺はお前をそんな風にはさせない。絶対に…絶対にだ」

「でも…」そう言って上げた顔は複雑だった。

「無理なんだ。出来ることは進行を遅らせるだけ…あと何年…いや何ヵ月…何日もつか分からない。あとどれだけ俺でいられるか…」

「無理じゃない」

「どうして…!」

洸祈は悲痛な顔をする。

期待させないでと。

「原因は絶つことが出来る。たとえ過去が原因でもだ!…だから、話してくれ…心の整理が出来たら……つっかえつっかえでもいい…言葉が足りなくてもいい…俺が全部受け止めるから。お前の罪も何もかも…受け止めるから…………その時は俺の本当の名前教えてあげるよ」

「本当の名前?」

「月華鈴の人間は皆孤児なんだ…だから苗字を持たない。“陽季”は菊さんから貰ったもの」

陽季は洸祈の胸に顔を埋め、片手を心臓の上辺りに置く。

鼓動を確かめるように優しく乗せた。

「俺にはあるんだ。もういない親から貰った名前が……」

…―最愛の人に呼んでもらうって決めてたんだ―…

「陽季…」

「俺には洸祈が必要だよ」


否定は怖い。

拒絶は怖い。


「失いたくないんだよ」

喪失は怖い。



洸祈を失いたくないんだよ


「もう誰も」

「陽季………」

洸祈がゆっくりと陽季の頭を撫でた。

「大好きだよ」

「うん。今はそれがいい」

俺は洸祈を………………

俺は陽季を………………




          イキタイ…

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