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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
思い出に… (序章)
73/139

護命鳥(2)

「…許してくれ」

洸祈(こうき)は目を開けた。

「洸祈?」

「……」

洸祈の顔を覗き込んだ陽季(はるき)は次の瞬間洸祈に組み臥せられていた。洸祈のその手が陽季の細い首に掛かる。

「洸祈っ!!」

「お前は何を考えているんだ!俺をどうしたいんだ!」

洸祈が陽季の首をぎりぎりと締め上げる。陽季は苦しそうにうめいた。

「っ!!…こ…きっ…」

「重い、重い、重い!罪が重いんだ!!!!」

陽季の顔から血の気が引いてくる。

「洸祈!!やめろ!!!!!」

(あおい)が洸祈の両手を陽季から力ずくで剥がすとその手を後ろで組ませて体を床に押し付けた。

「っゴホッ…ゴホッ…」

「陽季!大丈夫かい!?」

「…ら、蘭さんっ……俺は、大丈夫…だからっ……洸祈、は!?」

双蘭(そうらん)に背中を擦られながら体を起こすと陽季は喉を押さえて洸祈を捜した。

「洸祈、洸祈!」

「放せ!」

葵は洸祈の背中に乗って全体重で洸祈を押さえるが、力差のある洸祈に弾き飛ばされかける。

「強っ」

葵はそれでも必死に洸祈を押さえ付ける。そんな二人の傍らに琉雨が正座した。

琉雨(るう)、危ないよ!」

「大丈夫です。………旦那様すいません!」

琉雨と洸祈を中心に、青い光を放つ大きな陣が形成されていく。

「何を!?」

「葵さん、離れてくださいっ」

琉雨の言葉の意図することを察して葵は陣から飛び退いた。洸祈は自由になった両手で起き上がろうとするが起き上がれない。重力が彼を床に押し付けているのだ。その間にも光は陣の細かなところをなぞっていく。

陣の完成。

「禁縛調律!」

光が一層強くなり琉雨と洸祈を包み込んだ。

「何が…」

眩しさに目を細めて陽季が呟く。

徐々に収まる光。

瞳を閉じて動かない洸祈の頭を抱くようにして琉雨も瞳を閉じいた。琉雨の頬を涙が伝った。

「琉雨…」

葵が苦しそうに顔を歪めた。



千里(せんり)(くれ)が店番でいないリビングの食事用テーブルを囲んで葵、双蘭、陽季がいた。

「琉雨ちゃんは何を…」

双蘭がソファーに横たわっている琉雨に目を向けて呟いた。

「禁縛調律。発動者と対象者の魔力を魔力の少ない者に合わせて消し去る魔法です。琉雨は洸祈の護鳥、つまり、洸祈の魔力を使って契約主である洸祈を護る魔獣です。だから、彼女が契約主を対象に禁縛調律を使うと結果的に契約主の魔力の底を尽かせることになるのです。突然、魔力を失った洸祈は気絶し、契約主と魔力で密接に繋がる琉雨もまた、気絶したんです」

「そんな無茶を彼女はしたのか」

陽季が眉をひそめる。

「……る…う…」

琉雨の横たわっているソファーと向き合うように置いてあるソファーに横たわる洸祈は苦しそうに呟いた。

伸ばそとした手は届かない。何故なら、洸祈は手と足を縛られているからだ。

双蘭はそんな洸祈の姿から辛そうに目を逸らした。

「……許してくれ…お前は何を考えているんだ…俺をどうしたいんだ…重い……罪が重い…」

洸祈が言った言葉を陽季は復唱する。

「あいつのあんな行動、前にもあったりしたのか?」

「俺の知る限りでは、ないよ。琉雨は見たことあるのかもしれない。琉雨は洸祈が軍学校を退学してから一番長く洸祈と居るから」

「あいつは俺じゃない別の誰かに話し掛けてた。一体誰に…」

陽季は指で首に未だに残る洸祈に絞められた痕をなぞった。




…―罪が重い―…











「何これ」

目が覚めたらこうなっていた。

ソファーに寝かされていて手に縄。足に縄。

「俺は罪人か?」

陽季が来るかもしれないから財布を握ってコートを肩に掛けて出ようとしたら陽季が目の前にいて………

「洸祈?」

「陽季?………!!」

陽季はしゃがんで洸祈の顔を覗き込んでいた。

洸祈は遠い昔の約束を思い出して逃げようとするが縛られているから動けない。

「な、何する気だよ!縛るなんて…約束は嫁さんをとらないでおくだけで、陽季と……」

赤く上気する頬を隠せない。洸祈は身を捩ってソファーの背凭れに顔を隠そうとした。

「覚えてないのか?」

「へ?」

質問の意味が分からない。

洸祈は陽季の方をゆっくりと振り返る。

「双蘭に会ったところから話してみろよ」

「は?」

「いいから!!」

陽季の険しい表情に圧倒され洸祈は素直に記憶を辿った。

「昼寝してたら後ろから双蘭さんに抱きつかれて」

陽季の眉がピクリと反応する。

「応接室は皆がいて狭いからリビングに双蘭さんを連れてって、ここでコーヒー片手に色んな話して、陽季の話辺りで双蘭さんが俺にのし掛かってきて」

陽季の目が険しさを増した。

「その途中で葵が怒りながら入ってきて、俺は…その」

洸祈が唇をきゅっと結んで陽季を正面から見た。

「俺に会いたくなくて」

「そうじゃなくて」

陽季が洸祈の代わりに言おうとしたら洸祈が顔を陽季に近付けて必死に否定した。

陽季はうわっと小さく叫んでその場に尻餅をつくと頬をほんのり赤くしてこほんと咳払いをする。

「まぁいいや。洸祈は財布とコートを持って外に出ようとした。それで?」

少々納得のいってないようだが、洸祈は続きを話し始めた。

「陽季に丁度出会した。そしたら、ここにいたけど?」

陽季を言葉を失ったように口を開閉させる。

「どうしてここにいるか思い出せないのか?どうして縛られているか分からないのか?」

「うん。…もしかして俺は何かしたのか?」

「体に異常はない?」

洸祈の質問に答えずに陽季は洸祈に質問する。

「え?…ない……いや、俺の魔力が減ってる。どうして…」

陽季は何も言わない。

「陽季!知ってるんだろ!?俺は何をしたんだよ!」

洸祈は噛み付くように言う。その時洸祈は陽季の首にある痕に気付いた。

あれは絞められた痕だ。

「………それ、俺が?」

陽季は唇を噛んだだけで答えない。

「そうだよ。洸祈が陽季の首を絞めたんだ」

いつの間にかソファーの背凭れに葵が腰掛けていた。

「じゃあ、手に残る感触は…俺は!!」

「洸祈」

陽季は手を伸ばすが洸祈は首を振ってそれを拒絶した。

「ごめん、陽季。今は………」

「洸祈、まだあるよ。そしてそれを禁縛調律して止めたのは」

葵が立ち上がった。それに合わせて陽季も立ち上がる。

開けた視界に映るのは…瞼を腫らしてぐったりとしている琉雨だった。

「琉雨!!!!」

ドサッ

洸祈は琉雨に近付こうとしてソファーから落ちる。

「っ!」

「今ほどくから」

葵が洸祈の縄を外そうと手を伸ばす。

「いい、俺一人で外せる!」

怒鳴ると、洸祈は自らの唇を噛み切ってから胸ポケットに入っていた陣紙を加えた。

血が陣紙に染み込んでいく。

「斬!」

手と足の縄が切れ、床に広がる。

「洸祈、魔力は」

「これぐらいの魔法の分の魔力ぐらい直ぐ回復する」

違う。

普通の人間の魔力は1、2時間寝ただけでは回復にすら至らないのだ。つまり、魔力が底をついてから回復し始めるにはかなりの時間を必要とするのだ。一般的に早くて6時間、遅くて半日。魔力が高い人程早く、低い人程遅い。

また、洸祈はこれぐらいの魔法と言ったが、魔法陣はその人間の魔力の性質に関係なく特定の魔法を使用出来るので下級の魔法陣でもかなりの魔力を使う。

常人を遥かに凌ぐ回復速度。それほどまでに洸祈の魔力は膨大なのだ。


「琉雨っ!!大丈夫か!?」

「…だ…旦那様。良かったぁ」

ゆるゆると重たそうに瞼を開くと琉雨は血の気の引いた顔で微笑んだ。

ゆっくりと洸祈に伸ばされた琉雨の手を彼は掴むとその小さな体を優しく抱き締めた。

「ごめんな。ごめんな」

「旦那様のせいじゃないです」

琉雨のその手が洸祈の背中の辺りの服をとても強く握った。

「ルーは旦那様が苦しんでいるところを見ると胸が痛くなります」

琉雨の瞳からぼろぼろと涙が溢れる。

「ルーは旦那様が笑っているところを見ると胸が温かくなります」

嗚咽混じりで琉雨は洸祈に言う。

そして、彼女は叫んだ。

「だから、ルーは旦那様に苦しんでほしくない!だから、ルーは旦那様に笑っていてほしいです!!!」

「ありがとう。ありがとう、琉雨」

琉雨は洸祈から体を離した。彼女の目の前に洸祈の顔がくる。

「ルーは旦那様が大好きです」

「うん。俺も琉雨が大好き」

洸祈は琉雨に笑い掛けると、琉雨の前髪を上げて、露になった額にキスをした。そして、顔を真っ赤にした琉雨の瞼を優しくなぞった。

腫れぼったい瞼を冷たい洸祈の指で触られて琉雨は顔を赤くしたまま気持ち良さそうに目を閉じる。

1分程そうすると、琉雨は目をゆっくりと開いて洸祈を止めさせた。

「ルーもお返しします」

首を傾げる洸祈に顔を近付けると右頬にややぎこちなくキスをし返した。

「旦那様、大好き」

ソファーから降りると琉雨は全体重を洸祈に預けて抱きついた。

僅かな時間の後に顔を火照らせた洸祈と茫然とする葵と陽季を置いて、琉雨は夢の世界に行っていた。

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