護命鳥(1.5)
用心屋、応接室。
洸祈愛用の揺り椅子に双蘭。客用のソファーに葵達4人が座った。
「痛い」
千里は頭頂部を押さえて唸った。
「千兄ちゃん、大丈夫ですか?」
「自業自得だからほっときなよ。久し振りに洸祈に会いに来た月華鈴の団長に向かって不倫?なんて訊いたんだから」
「でもさ、洸が月華鈴のお手伝いをしていたことがあったとはね」
「俺も初耳。家出はしてたらしいけど…よく分からない」
雑誌から呉、琉雨が顔を上げた。
「旦那様、家出したことあるんですか?」
「あるよ。突然いなくなって突然帰ってきた…らしいよ」
葵が溜め息を吐く。
琉雨が契約主のことといって目を輝かせる。秘密の多い洸祈なのだから気になるのだろう。
「だけど記憶が曖昧で…だけど…璃央が知ってるようだったな…」
「璃央センセがね…」
千里が唇の両端を吊り上げた。
バンッ
「ひゃう、何ですか!?」
琉雨がびくりと体を震わせて葵にしがみついた。
『そうやって逃げようとするってことは…。洸祈、聞け。……………お前は幸せか?』
「誰の声?」
「陽季よ」
千里が首を傾げたので双蘭がコーヒーを飲む手を止めて答えた。
『…陽季、俺より背が高くなってる』
『おい!洸祈!!答えないなら俺はお前は幸せだと見なす』
「旦那様大丈夫でしょうか?」
5人の目がドアに釘付けになる。
『…陽季』
『洸祈!お前は幸せなのか?』
沈黙。時間が経つほど空気が重くなっていく。
幸せではないのか?と…
応接室の全員が口を閉じた。
『………………幸せ……だ』
『洸祈!?』
陽季の驚いた声。
『洸祈、おい、洸祈!洸祈!!』
「あおっ」
千里が目を見開く。
「!!!!おい、どうした!?」
葵は立ち上がるとドアを勢いよく開け放つ。
陽季がぐったりした洸祈を支えていた。