月華鈴(3)
何秒、何分……一体どれだけの時間がたったのだろうか。
「………………洸祈、俺と約束してよ」
陽季が顔を上げた。ぼさぼさになった髪の毛を気にもせず、ただただ洸祈を見詰めた。
「いいよ」
―俺達が次会う時はお前が過去に区切りをつけ、俺が誰にも恥じない舞妓になった時だ―
「俺もお前も幸せになった時だからな」
「うん。じゃあ、これ」
洸祈は右手の小指を立てた。
「指切り?」
「そう」
そんなことしなくても。
でも、してもいい。
陽季は自らの小指を洸祈のそれに絡めた。
「約束したよ。次、陽季と会う時は幸せになってる」
何て満面の笑顔で言うから………
「追加事項」
「?」
首を傾げる洸祈の耳元に陽季は囁いた。
『え、何?聞こえない』
『菊ちゃん、しー』
『そう言う先輩が一番煩いですよ』
『ほーら、皆静かにしなさい』
『分かりました、蘭さん』
『そーだよ。双灯さん静かにです』
『やよちゃんっ……』
と、ドアの向こうの彼らの会話は洸祈の耳に入らなかった。
陽季が囁いた言葉……
「は、は、陽季!!!!!!」
「指切り、約束した」
陽季はぷいっとそっぽを向き、洸祈は小指をもう片手で包み込んで火照る頬を首を竦めて隠そうとした。
「嘘ついたら針千本飲ましてやる」
それを真剣な表情で言うから。
「…残して置いてはやるよ。でも、陽季とは限らないんだからなっ!」
洸祈が言い切ると陽季はガバッと顔を上げた。
何?と動揺を隠せない洸祈を見て陽季は笑んだ。
「つまり、俺にも見込みあるのか!」
裏を取られた。
洸祈は言葉を失った。
―洸祈のお婿さんは残して置いてね。俺もお嫁さんは残して置くから―