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イヴ

12月24日、クリスマスイブ。今日の北半球は寒い。

そして、東京も例外なく朝から寒かった。

「あったかやな~」

「温かいね~」

物置から出された2脚の椅子は今、温かな光を醸し出す暖炉の前に置かれていた。


「おい、来客中だぞ!」

最初は静かだったので見逃していたが、ツチノコの話題になった所で会話がヒートアップし、無視せずにはいられなくなったのだ。

洸祈(こうき)は依頼人に懇切丁寧に謝ると、暖炉の前で屯う二人の首根っこを掴まえた。

「上にいろ!!」

「なー崇弥(たかや)ぁ、ツチノコって何食べるんやと思う?俺は無難に土の中の微生物や。どうしてかって?質問は受け付けん」

「僕はミミズだと思うんだけど。どうしてかって?由宇麻(ゆうま)と同じく質問は受け付けないよ。洸はどっちだと思う?」

見上げる二人、由宇麻と千里(せんり)の目が洸祈の答えを期待してキラキラと光る。しかし、見下げる洸祈の目はそれに反比例するように冷めていた。

「俺はツチノコの有無自体を否定だ。この目で見たもの以外は信じられないからな」

「つまんない奴やな」

洸祈よりも身長が低く、体重が軽い由宇麻は簡単に引っ張り上げられて立たされる。

由宇麻のだらりと下がった腕が期待外れだと言っているようだ。

「洸つまんなーい。夢な~い」

言葉と逆に千里は愉快そうに由宇麻に便乗する。

「第一、ちぃはツチノコを信じてないだろ。お前も俺と同じで自分の目で見たもの以外信じないくせに」

「うん」

あっさりと肯定。

由宇麻の両目が驚愕で開かれた。

「えー!!信じてたんやないの!?」

「僕は一度も信じてるなんて言ってないもん。“もしもいたら”でしょー」

「…確かに」

千里の土壇場での裏切り(?)に由宇麻は納得出来ずにいた。

よくあることと割り切れる洸祈は由宇麻に同情するしかない。

が、それも5秒間だけ。

「ここにいるな。迷惑だ!」

「えーいいじゃん。ね、レイラさん」

無理矢理にでも引き摺ろうとする洸祈の手をかわして千里はレイラに手を振った。

今回の依頼人はレイラだったりする。

「構いませんよ」

レイラは手を振り返してにっこり。

「甘やかして…」

洸祈は疼く頭を押さえた。



今回のレイラの依頼は…

「あの、クリスマスを皆さんと過ごしたいの!」

……………………………。

「どうしたんですか?」

「どうしたって頭がおかしくなったわけじゃないのよ」

突拍子もない話をジェスチャーを交えて話すレイラは道化師に見える。本当にどうしたのだろうか。

「はぁ」

「クリスマスは家族と一緒に過ごすものでしょ」

聞いた言葉だ。去年も使用人がいないと言って洸祈に用心棒を頼んできた。

「私、家族が忙しくてここ何年もクリスマスは一人なの」

「待ってください。レイラの話だとクリスマスは家族で過ごすものなのでは?」

無粋なことだがそれに当て嵌めるとレイラは―洸祈達が家族かどうかは置いといて―家族に割り込んでいることになる。

「ダメなの?」

何なのだろう。レイラはうっすらと涙を溜めて見詰めてくる。涙は女性の切り札だ。

「いえ、ダメではありません!」

(あおい)は置いといて、別に血の繋がった家族というわけではない。

「そう、良かったわ。荷造りが無駄になるところでした」

準備万端すぎます。

レイラの行動力はパーティーでの時といい、計り知れない。

「俺もええ?」

と、割り込んできたのは由宇麻だ。レイラにここにいても構わないと許可を頂いた彼はコーヒー片手に訊ねてくる。

「独身者にとって毎年のクリスマスは苦痛なんや。そうやろ?レイラさん」

レイラは返す言葉に詰まって俯く。

「あ~あ、駄目駄目な由宇麻」

由宇麻の隣では千里が紙飛行機を暖炉に向かって飛ばしていた。紙飛行機はボッと紅い火を出して一瞬で燃え上がる。

司野(しの)、失礼だ。確かにレイラは独身だが、そこで話を振るのは男として最低だぞ。だからお前は31なっても独身なんだ」

「崇弥も十分失礼やんか!」

由宇麻は肩を上げて洸祈に呆れ果てた。

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