残暑(1.5)
バサッ
淡い青の羽を生やした少女、魔獣の琉雨は洸祈愛用の揺り椅子の背凭れに乗った。
「琉雨どうだった?」
「39.2だそうですー」
「千里君、大丈夫やろか」
「いや、大丈夫じゃないでしょ」
39.2…大丈夫なわけない。
「旦那様が看るそうですー」
「俺に何か出来ないかな」
「洸兄ちゃんだったら葵兄ちゃんは店番するよう言うと思いますよ」
「呉…そうだね。俺は店番しか出来ないからね」
嘘っぽい泣き真似をする。
「あの、そういう意味でいったんじゃ」
違うと伝えようとしてしどろもどろに言う呉。葵は呉は本当に成長したと思う。
未だに敬語は変わらないが、感情を顔に表すようになったし、相手の心配をするようになった。
誠に微笑ましい。
「うそうそ。6時までは店、開けてなきゃね」
「由宇麻さん、コーヒーのお代わりいります?」
「おう、頂くで」
「由宇麻、依頼もないのに随分と図々しいね」
「いいやんけ。御得意さんのよしみや」
御得意さんにはやや無理がある気が……
「これ、持ってきたんやからええやろー」
『舐めるお好み焼き』熱中症予防飴。
「不味そう」
「葵君、失礼やで。俺はお前らが熱中症ならんよう心配して持ってきたんやで」
色付きの袋が中身を隠す。
「ルー舐めてみたいです!」
「お、ええで」
由宇麻は袋をばっと開けると、個別に封装された一つを机に置いた。
琉雨は揺り椅子から落ちたかと思うと光に包まれ少女の姿で飴を手に取った。
「ありがとうです。ワクワクします~」
楽しそうに鼻唄を歌って袋を開けるとぱくっと口に入れた。
…………………
「ルー、ガンバります……」
目をぎゅっと瞑っている。目尻から涙が滲んでいる気がする。
「琉雨、出しても平気だぞ」
「琉雨姉ちゃん、無理はいけないです」
葵と呉は琉雨の背中を擦った。
「どないしたん?」
「由宇麻鈍い」
「司野さん鈍感だ」
「いい?由宇麻の持ってきた飴、まず…」
「ひゃう~。いいんですっ。飴美味しいです!」
慌てる琉雨を葵は無言で撫でた。呉は尊敬の目を琉雨に向けていた。
「そうなん?良かったわー。二人も舐めるか?」
由宇麻は満足げに二つの飴を乗せた手を葵と呉の前に差し出した。
『………』
「千里にスポーツドリンク買ってこなくちゃ」
「俺も行きますっ」
葵は立つと暖炉の上に乗った自分の財布を手にした。その後ろを呉が追い掛ける。
がちゃ
応接室のドアが開く。
からん
玄関の飾りがなった。
「行ってもうた」
「店番が皆出て行ってどーするんですかぁ!!」
由宇麻は「由宇麻さんのせいです」と頬を膨らませた琉雨によって葵と呉が帰ってくるまでの約2時間、店番をやらされた。




