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残暑

また撫でてよ。

―私が傍に居るから―




コンコン

「ちぃー、朝飯だって呼んでるだろ」

「はぁ~い」

クリーム色の壁紙。

ステンレスの棚と机。灰色のカーペット。物置と化したクローゼット。

今は夏なのでブラインドがしまっているが普段、朝方に日の当たる隅に棚と机と同じくステンレスのベッドがある。


千里(せんり)は欠伸に伸びをするとふらつく足のバランスをとってベッドから降りた。

両足を軟らかなカーペットにつけた際、奇妙な違和感を感じた。

まるで頭だけが体と離れて浮遊しているような感覚。

「ちぃ?」

「今行くよ~」

千里はドアを開けた。



―大丈夫。何処にも行かない―

「千兄ちゃん、どうしたんですか?さっきから全然箸が進んでないです」

「ちょっと、ね。大丈夫だよ~(くれ)

千里は隣に座る呉の頭を掻き回した。

「ルーの料理不味かったですかー?」

「そんなわけないよ。琉雨(るう)ちゃんの作る料理、いつも美味しいよ」

いつもと変わらない笑顔で微笑む。

「…ただ、食欲がなくて。ごめんね。残りは後で食べるから残して置いてよ」

「いえ、気にしないで下さいよ~。料理はルーが処分しときますから。後で千里さんがお腹壊しちゃったらもっと大変ですー。休んでて下さい」

「ありがと」

千里は食べ終わった食器だけを流しに持っていくとソファーに寝転がった。

「千里、クーラーの効く部屋で寝ると風邪ひくよ」

「熱いんだもん」

(あおい)の言葉に千里はただを捏ねる。

「まぁ夏は暑いな」

洸祈(こうき)の部屋、クーラー付いてるくせに」

話が替わって洸祈の部屋に付いてるクーラーの話になる。

「しょうがないだろ。元から俺の部屋にクーラー付いてたんだから」

「違うよ。クーラーの付いてた部屋を洸祈の部屋にしたからでしょ」

「あー、俺は店長だっての。冬までには全員の部屋にクーラー付けるって言っただろ」

葵は「今がいい」とぶつぶつ呟いて止まっていた朝食を再開させた。



「千兄ちゃん寝てる」

ソファーで寝てしまっている千里を呉は珍しそうに眺めると人差し指で千里の頬をつついた。

「ふぁ~、柔らかい」

「何してんだ?呉」

「柔らかそうだったのでつい」

「へぇ。凄いな呉は」

洸祈は呉は勇者だと素直に感激してしまう。

「そうですか?あ、洸兄ちゃんは触らないんですか?」

「いや、起きた時のことを考えると恐ろ…」

不意に停止した言葉に通販番組を眺めていた呉は洸祈の方を向いた。

「あ、やっぱり触りたくなったんですか?」

呉には洸祈が千里の頬を触れているように見えた。

洸祈の瞳は真剣だ。

「呉。体温計、下の倉庫に救急箱があるからその中から取って来い」

「はいっ!!」

洸祈の有無を言わせない声。呉は慌てて体温計を取りに走った。



どたどた

階段を盛大な音と共に駆け下りた呉は靴だなの自分の靴を掴むと足に引っ掛けた。

「あれ?呉そんなに慌ててどうしたの?」

「どーかしたんですかー?」

「よ、呉。どないしたん?」

一人の客を迎えた三人は談笑を一時停止して葵、琉雨、由宇麻の順で次々と同じ質問をしてきた。

「洸兄ちゃんが千兄ちゃんを触ったら体温計持ってこいって凄い勢いで言ったから…」

呉は目一杯短く話をまとめると応接室と廊下のドアにダッシュして開けた。


「体温計って風邪ひいたのかな」

「ルー上見てきます」

「うん。俺は店番しなきゃいけないから」

「俺はどないしたらええ?」

由宇麻(ゆうま)は要領悪くて邪魔になるからここにいて」

「葵君、さらっと酷いことゆーたな」

「一々突っ掛かってくるなんて子供みたい」

「うっ」


呉は開けて廊下に出ると右に少し行った所にある引戸を引いた。倉庫の中には組み立て式の簡易棚があり無造作に様々な物が置いてあった。

「救急箱、救急箱」

呟いて上から救急箱を探す。上から3番目、目的の物は木箱で緑色の十字が描かれていた。

「あった!」

救急箱の取ってを握ると倉庫の戸も閉めずにリビングに向けて走った。


「体温計!」

「おーありがと」

ソファーに寝ている千里はタオルケットが掛けられていた。洸祈が持ってきたのだろう。

呉は救急箱から体温計取り出して洸祈に渡すと邪魔にならない位置で見守った。

「熱、かなりありそうです」

ソファーの背凭れの上に乗った琉雨は心配そうな顔をする。

「あぁ」

洸祈は慣れた手付きで千里のシャツのボタンを数個外すと脇に体温計を挟ませた。

千里の呼吸は荒い。砂漠で水を求める旅人のように激しく胸を上下させる。

あっという間だ。額には大粒の汗が滲む。

ピー

体温計が計り終わったという合図だ。

「39.2…呉、救急箱の中に冷却シートなかったか?」

「……あります」

「それくれ」

熱冷まシートと書かれた箱から一枚のシートを取り出すと呉は付属のビニールを剥がして洸祈に手渡した。

「ちぃ、冷たいかも」

一応断って千里の額に貼った。

「千兄ちゃん大丈夫ですか?」

「大丈夫さ。ちぃは意地だけは一人前だから」

洸祈は片目を瞑って見せると千里をタオルケットごとおぶった。

「こいつ俺の部屋に寝かせるな。適度にならクーラーで冷せるからな。暑い暑いって騒がれたら困る。琉雨、こいつが起きたらお粥よろしく頼むからな」

「はひ!旦那様」

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