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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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思い(7)

で、やっと寮に帰れたと思ったら即、校長に呼ばれて……

「はい、退学~」

千里(せんり)はパンと両手を合わせた。

「な~にが『はい、退学~』だ!!!!」

と、洸祈(こうき)のツッコミは無視された。

洸祈の心中としては葵の記憶が戻ったということだがそこは本人に会ってからとして一時保留する。

千里はクッションを顎の下に敷き、ソファーに俯せになってテーブルのクッキーを摘まんでヒョイと口に入れた。

「深刻な雰囲気はどうした!無駄に緊張したじゃねぇか!」

「騙された~、洸が騙された~」

子供のように、ばた足をしながら洸祈に笑顔を向けた。というより、子供にしか見えない。

「ほぉら、千里さん!洸祈さんは貴方を心配してたんですよ」

「だから何さー」

頬を膨らまし、クッキーをまた一つ口に放った。

千里は女性の扱いには慣れていない。出会った女性が数少ないからだ。

そんな彼にとってレイラは苦手な相手だった。

「もう」

洸祈の隣に座っていたレイラはクッキーの入った皿を千里が触れられない位置まで遠ざけた。

「ちゃんと、聞きなさい」

その行動はまるで、我が儘な子供を軽くあしらうお母さんのようだった。

千里は顔を二人から逸らしてクッションに埋めた。

「む~、………むぐっでむぐっ………」

「何言ってんだ?」

聞き取り不可能な言葉に洸祈が眉をひそめると、千里がそれを横目で見て「何でもない!!」と半ば躍起になって言った。

「『知ってるよ』だそうですよ」

「えっ、分かるんですか!?」

目を見開いて唖然とする洸祈にレイラは微笑んだ。

「レイラさんって超能力者か何か?」

半眼にして千里がレイラを見る。

「あら、勘が当たったんですね」

誘導尋問ってやつか。

「目敏いお人」

「ただ勘が良いだけですよ」

皮肉の籠った千里の言葉をレイラは受け流す。

「ちぃの扱いが上手いですね」

そんなレイラを洸祈はただただ感心するだけである。

「私、教会でシスターとして働いていたことがあるんです。だから、子供達の扱いには慣れているんですよ」

シスターは万国共通で、女性のお手本のようだ。

「どうせボクは右も左も判らないお子様ですよーっだ!!」

不貞腐れて千里はクッションの中に顔を埋めた。

クッションの中が今一番安心出来る所なのか…。

どうやら千里が負けのようだ。



「で、(あおい)は?」

「迷子」

「いつ?」

「昨日の…、お昼ランチを食べた後…ぐらい」

あえて此処でランチと言う理由は!?は、置いといて……

「何処で?」

「水の都こと、ここヴェネツィアで」

はぁ、迷子ですか。洸祈は頭を抱えた。

陽気に話す千里に溜め息が出る。

「迷子は困りましたね」

めちゃくちゃ困ったことになった。レイラの言葉に洸祈は背中が重くなるのを感じる。

「洸?まずいことになった?」

「あぁ」

苦い過去が思い出される。幼い自分には掴む男達の手を振り切ることは出来なかった。

「昔にも葵が迷子になったことがあったんだ」

「で?」

「彼奴のせいで俺は少年院に送られかけたよ」

父さんが事態に気付いて仕事を脱け出してまで毛嫌いしている警察に来てくれなかったら…

一人少年院に送られる自分を想像して気分が悪くなる。

「葵は迷子になるとパニックを起こして魔法を制御出来なくなる。そして暴走するんだ」

「おぉー!」

他人事のように千里はケラケラと笑った。

「てことは昨日からの港付近の異常気象はあおが原因だったんだ~」

「港!?」

高いところに建つリーンノース邸はヴェネツィアの町を見渡せるようになっている。

ベランダへと繋がる窓を振り向いた洸祈は唖然とした。レイラは口をゆっくりと開く。

「あれ…」

「葵か!?」

洸祈は直ぐに我に返ると窓を開けベランダに飛び出した。

物凄い風。遠くに見える港は竜巻の餌食になっていた。雲一つない青空に不自然に佇む風の渦。

気付かなかった。それも当然、二人は昨日の昼前には山奥のパーティー会場へと向かっていたのだから。

「怪奇現象だね~」

千里は楽しくて仕方がないといった表情をする。とことん楽しむ性格。それを憎めない。

「行くぞ!」

そんな千里を置いて洸祈は踵を返した。

「はい、はーい」


「葵さんの所へ?」

「はい。一晩の宿、ありがとうございました。またのご依頼をお待ちしております」

洸祈は璃央に叩き込まれた紳士の完璧なお辞儀をした。

客は御宝です、よね。

「えぇ、そうさせて頂きますわね。でもその前にこれを」

そう言ってレイラは何処から持ってきたのか、男物の黒のパーカーを洸祈の肩に掛けた。

「…これは」

「秋風はスーツだけだと堪えますよ。でも、スーツの上にこれは不恰好かしら」

「いえ。とても嬉しいです」

自然な笑顔をレイラに向けた。

レイラは天使の笑顔で洸祈の肩をパーカーの上から軽く叩いた。

「いつお返しすれば…」

「言いましたでしょう?またのご依頼の時に」

「そーゆーこと」

と千里が、

「何でお前が言うんだ」

「え~、だってねぇ」

「だって?」

「あ、ありがとーございますね」

と、洸祈との会話は千里本人によって中断され、千里はレイラが持ってきた洸祈に貸したパーカーとお揃いの白のパーカーに対してお礼を言った。

「洸の分もちゃんと僕が洗っておきますからね」

それに“だって”か。

「ないな」

「やるよー」

「昔っから、ちぃが洗濯しているところなんて見たことがない」

「洸だって、あおにやらせてんじゃん!」

「やってくれるんだ!」

「その真実を僕は知ってんだぞ!」

「何だよ」

「昔、洸があおの分も洗濯したら洗剤の種類、洗剤の量を出鱈目に入れて形、大きさ、色でさえ変えたんでしょ!だからあおが洸の分もやってるんだ」

「どうしてそれを!!葵か!?」

「ザンネン、ハズレで~す。洸とは大違いの、と~ってもイイコに教えて頂きました。あの若さで炊事洗濯が完璧とは。洸がこき使うからだよ?」

「紫紋か!だけどこきは使ってない。あいつがやってくれるんだ!はぁ…密告なんて…それもちぃにかよ」

「それもは余計!」

「ちぃが洗濯をせずに葵にやらせていたのも事実だ!」

「成績優秀な僕ら翡翠寮はコインランドリーですよ~だ!あおは優しいから僕の分もついでにやってくれるの!藍火寮の洸とは違うんですー」

「翡翠寮で成績優秀なのは葵だけだろ!」

「藍火寮は誰もいないじゃん!」

「昨年の寮対抗戦は俺達が優勝した!!」

「こっちだって寮総合成績はぶっちぎりの一位だもん!!」

「葵の4桁のお陰だろ!」

「1桁で皆の足枷にしかならない洸よりはマシだから」

「このっ!!!」

「殴ったな!!暴力バカ!お返しだ!」

「った、やるか!?」

「あ~、やるよ!!」


「二人ともいい加減にしなさい!!!!!!!」

ゴンッ


戦闘体勢に入った二人の頭をレイラは容赦なく叩いた。

「早く、いってらっしゃい」

声とは裏腹の黒いオーラ。

『はいっ!!!』

洸祈と千里は慌てて出て行った。



そんな二人をレイラはスカートの裾を摘まんで少し上げ、膝を軽く折り曲げて見送った。

「またね」

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