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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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思い(6)

【さて問題、電子で動くライフル持ち(その他多彩な機能アリ)二足歩行機器と対峙するには何が必要か?】

「俺達が持っているもので」

「気合いと根性?」

「うんうん。気合いと根性だけで勝てるのは二次元だけだよ」

不正解。

「核」

「物騒だな。俺もお前も跡形も残さず消えるよ。第一、持ってないだろ?」

「持ってるよ。洸のクロスチップ。改造しちゃった」

「あ、そう。却下」

不正解。

「…分かんない」

「重要なのは原因を絶つこと」

「原因…………………短気な君かな」

「尤もな答えを言うなよ!」

正解であり不正解。でもここは不正解。

「理不尽だよ。だけど自覚はあるんだ」

「五月蝿い。よし、正解を教えてやろう」

「正解は?」

「その犬を破壊するか遠くに投げるか」

これが模範回答。

「動物愛護法に違反」

「そいつを追ってあれらは俺達を追っているんだ!」

「もう、逃げ切ればいいんでしょ。逃げ切れば!」

「逃げ切れればね。…この状況で」

“絶体絶命”とはこういう状況を言うのだろう。ロボット兵、約50体。見渡す限りロボット。ぐるりと囲む銃口。

武器はこの体と親友の抱える犬ぐらい……

「って…使えないか」

「使えるよ!ほらっ」

自信ありげに言うので(あおい)はちょっと―ほんのちょっと―期待をしてみた。

千里(せんり)はロボット犬を頭上高く持ち上げる。

………ワン

「………………反応無しだな」

「なんでだろ…愛嬌あると思ったんだけど」

ロボット犬に千里は頬にすりよせる。

「愛嬌でどうするんだよ!」

「兵隊さんはあおと違って可愛いものが好きって決まってるから。セオリーだよ」

「ロボットだ!…………寧ろ」

ピンッ

風が葵の頬をかする。

ドカン

二人が振り返ると一体のロボット兵が爆発炎上した。

「すごーい!」

千里がはしゃぐ。

仲間(?)を撃ち抜くのもあれだが、

電子で動く二足歩行機器にこれ程の物を装備させるとは…

「無駄に金賭けてるね」

千里は無邪気な笑顔を振り撒きながら手首をゆらゆらと揺らしてペチペチと拍手をする。

「マジでどうすんだよ!」

「僕には問題ありません」

クルリと一回転。千里が着ていたコートが翻る。付き添いでも一応幹部達の会議に出席だというのに、彼は黒のセーターに紺のコートだった。それに対して葵はスーツを着こなしていた。

それは置いといて、

「あおはどうするの?」

千里の空間断絶魔法は本人の周囲に別空間を作り、他のものの侵入を防ぐものである。完全な会得は難しく、今の千里が使いこなせるのは自らを守るのみ。

それに対して葵は長距離風系魔法。崇弥家の血筋から―洸祈(こうき)程ではないが―同級生よりかなり高い魔力を持っている。しかし、長距離なだけに近距離では小回りがきかない。

「洸祈なら魔法陣使えるんだけど」

「そうそう。洸の魔法陣は便利だよね。僕の空間断絶魔法簡単に使うんだもん」

いいなー、いいなーと千里はブスッと膨れっ面をする。

そんな彼の足元に風を切る音とともに小さいがかなり深い穴が出来た。

「でも、千里の空間断絶魔法は魔法陣と違って範囲制限無しでタイムロスも少ない」

「お褒めに預かり光栄です。だけど今の僕の力だと洸の魔法陣には敵わないんだよなぁ」

と、伸びをした千里の脇の下を何が凄い早さで通った。

「にしても、下手くそ。僕より下手くそだね」

「お前は呑気だな!ちょっとは俺の心配をしてくれ!」

伸びをしながら横目で葵を見据える。千里は分かりやすい溜め息をつくとしゃがんだ。

「?」

「分かったよ。このままだと後3分で援軍が来ちゃうしね」

「何で分かるんだ?」

「“野生の勘”by.洸」

千里は立てた指をくるくると回した。そして、指先が止まったかと思うと自らの腕の中でリアルな寝息を発しているロボット犬を指した。

「しょーがないなー。これを使おう!見てて」

ロボット犬を千里はまた高く持ち上げた。

そして、千里の澄みきった声のトーンが低くなる。

「起きろ」

ロボット犬の寝息が止まると、ビクッと顔を上げて周囲を見回した。

ロボット犬は千里から何か感じ取ったのか短い足をガシャンガシャンと機械音をならしながらばたつかせる。

その様子にロボット兵達の構えている銃が下がった。

「何したんだ?」

「まぁ見ててよ」

ロボット犬を顔の前に下ろすと恐ろしいぐらい清々しい笑みを浮かべた。トーンも元に戻る。

「君のオトモダチ、僕は大っ嫌い。ねぇ僕の言いたいこと分かる?」

“大”を妙に強調して千里が言う。

何だこの音は。

ミシミシと奇妙な音が持ち上げられているロボット犬から発せられている。

「君が僕の大っ嫌いな奴呼んでるんでしょ?」

あ~、こいつは。段々と犬が哀れに見えてきた。

手のひらを返したような仕打ち。頬をすりよせる千里は何処へ消えたのか。

「どうすればこいつらはいなくなるのかなぁ?……教えてよ」

その笑みは決して崩さない。

『ザー、ザザッ…………ザー…………………ハナセッ…ハナセッ!!!』

「喋れるのかよ!?」

犬のくせに!

「そのようだね」

ロボットだからね。微笑む千里。

『ハナセッ、コノヤロウ!!!!』

…千里の目が細くなる。何かが千里の琴線に触れたようだ。口は笑みを称えているが目は怖い。

「野郎?」

そこかなのか。野郎じゃんと葵は心中で呟いた。間違っても声には出せない。

『オカマ、ハナセヨ!』

「おかま?」

おかまか?そこは一応心中で否定しておく。死んでも声には出せない。

千里の額に青筋が浮かぶ。

バキッ

不吉な音が静寂化した闇夜に響く。

『ギャァ!!!!!!!………ザー、ザッ』

そして悲鳴とおぼしき音も静寂と化した闇夜に響く。

「ロボットなのに叫ぶし、痛いんだ」

ちょっと気持ち悪いな。率直な意見は置いといて、葵の呟きは風に乗っていった。


この犬は案外偉いのか、はたまた“兵隊さんは動物好き”という(千里曰くの)セオリーなのか、ロボット犬の悲鳴を聞いてロボット兵は銃を構えた。


「その銃下ろしてよ」

いつの間にかミシミシが大きくなっているのは気のせいではないらしい。

次は何処が破壊されるのか。葵は破壊されぷらぷらと揺れる右後ろ足を見た。


と、ロボットでも死にたくない(壊されたく)ないのか、

『オ、オロセ。ハヤク、ジュウヲオロセ!!』

ガシャッ

統制された軍隊のように銃が同時に下ろされた。

「エライ、エライ。聞き分けの良い子は僕は嫌いじゃないよ」


あれから約3分。ガシッ、ガシッっと音を鳴らしてロボット兵が集まってきた…ようだ。

「お前の言う通りだったけど増援来た。どうすんだよ」

「ではでは、短期なあおのためにお遊びはもう止めることにします」

千里はまたロボット犬を掲げると透き通る澄みきった声を出した。

「ここに僕の大っ嫌いなお前達の親玉がいます!こいつはこのように重症です」

と、言いつつ先程破壊したロボット犬の部所をあらぬ方向に曲げた。

『ギャーッ』

生々しい。

「不吉な事故でした」

千里は悲しそうに目を伏せる。

原因はこいつです。葵は心中で千里を指差す。

「早くしないとぽっくり逝っちゃいます♪」

ということで、

「今すぐ帰り道を案内して」

低い。葵の身体に染み渡るようだった。

3、2、1…0.

道が出来上がった。素晴らしい連携プレーだ。

「ありがと」

堂々と進む千里。

「暗殺は無駄だからね。僕の専攻魔法の前じゃ銃弾効かないから。試しても良いけどこの犬がどんな姿で君達の前に転がるかは覚悟していてね」

その声は得意気。

ロボット犬の尻尾を掴み、プラプラと揺らす姿はえげつない。

悪魔ですか!?

「千里、おもいっきり動物愛護法に引っ掛かってる」

「ロボットだから」

「…………そうだな」



「あっさりだったな」

「うん」

日本軍軍治制御都市圏内は別名『神域』と呼ばれており、軍基地を中心に居住区、訓練所など様々な建物がある。また、法の干渉を受けずに独自の規則の下で動いているため普通なら違法になる行為を罰則もなく出来ることがある。

政府はその実態を苦々しく思っているようだが国の安全を考えるとやむを得ない。

二人はロボットの道案内で簡単に北門に到着した。勿論、人間の見張りはロボット兵が撃退済みである。

「グッ……軍曹ハ……」

ロボット兵の一体がおろおろしながら喋った……

「喋った!」

「あ、こいつ軍曹なんだ」

前者は葵。後者は千里。

目の付け所が違うのはいつものこと。

「返シテクダサイ」

何てイイコなんだ。

銃向けられたのは許せないが…

葵には見えるはずの無い涙が見えるようだった。

「ほら、千里」

この犬はムカつくけど。

葵はロボット兵に味方して千里を促す。

「え~。あお、もしかしたらこいつ渡した瞬間、狙い撃ちされるかもよ」

確かに、

「一理ある」

「ソンナ!……嘘ツクノデスカ!?」

目敏いな。

知能が(このロボット犬よりは)高いようだ。

「…………大丈夫、安心して。ちゃんと返すから」

千里が正面のロボット兵に儚い笑顔を向けた。

頭を下げ、一瞬千里の表情がロボット兵から隠れたが、葵にはニヤリと笑う千里の意地悪い顔が見えていた。

可哀想に。

葵はロボット兵の軍曹(馬鹿ロボット犬)に対する思いに溜め息をついた。

「じゃあ、こいつ返すね」

そして千里はロボット犬を投げた。

「あ~あ」

葵の考えた数パターンの内の一つだ。

夜空を犬は飛ぶ。軽やかに、軽やかに。

「軍曹オォォ」

全てのロボット兵が軍曹を追って走り出す。

「酷イ!!」

ロボット兵の一人が振り向いた。

スミマセン!

千里の代わりに葵は心中で謝る。

「行くよ」

そんなのはお構いなしに千里は葵の腕を掴んで走り出した。

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