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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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思い(4)

「何が悪い!」

一瞬で会議室内が静かになった。

「『そんなの出来るはずがない、夢物語だ』?そんな弱い意志じゃ出来るはずないよな!」

(あおい)が机を叩く。

「あんたらは日本を背負ってんだろ?毎回毎回、同じこと決めて…これじゃいつまで経ってもこの国は変わらない!身分を盾にのうのうと生きる奴がいる国であり続けるだけだ!」

こうなった葵は並みの人間には止められない。

「『出来ない』じゃない『出来る』にするんだ!それに向かって努力をしろ!」

そして、葵は息を大きく吸うとこれでもないというほど大きな声で言った。

「俺は崇弥(たかや)葵。崇弥洸祈(こうき)の双子の弟だ!覚えとけっ!!!!」

言い切った。

いつの間に思い出したんだよ。

千里は溜め息を吐き、呟いた。

「バカ」

そうしている間にも、葵の発言はヒートアップしていく。

…千里は会議室の隅で壁に凭れてぼんやりと立っていたが、視界の隅に写ったものに意識が研ぎ澄まされた。

「まだ大丈夫……………………かな?」

小さく、小さく千里はもう一度呟いた。


まぁ当然の事であるが幹部達の血管が切れた。

「なんだね!」そう言いかけたところで千里が動く。

今まで気配を殺していたので会議が始まって10分も経たないうちに千里の存在は忘れ去られていた。

というよりは、軍人が気付いてないはずもなくわざわざ無視をしていたのだが…

と、微妙な時に動いたせいか幹部達が千里をぎろりと睨む。それを気にするでもなく、千里は飄々と葵の元へ歩いていく。そして

「僕たち未成年のよゐこはもう寝る時間なんで、会議途中ですが失礼します」

と、葵の頭を上から押さえつけ無理矢理お辞儀をさせて、千里は言った。

千里も葵の横で礼儀正しくお辞儀をする。

「何すんだ!」

葵は下を向かされながら小声で喋る。

「僕が何でこの場にいるのか忘れた?…あれ」

『あれ』が何を指すのか分からないので千里をちらりと葵は見る。

文句を言い合っている幹部達を千里は見ていた。それも、一番奥に座る男をだ。

葵も顔を少しあげ様子を伺う。

何も異常はない。

「机の下」

千里が囁く。

机は真ん中が空いた“回”のような形をしているため、簡単に机下の荷物用の棚が見える。

それはあった。黒い布袋から少し見えるのは…

「…拳銃」

厳重な身体検査をされたはずなのにだ。

実際、“一応”―あくまでも一応―ということで、ズボンに挟んで小型銃を背中に携帯(隠)していたが簡単に見つかって預かり。通信機器の類いも預かり。腕時計までもが預かりに。

そして、何処から調達したのか魔力を一時的に封じるらしい薬を飲まされた。

間違っても魔力が完全に封じられることはない。そこまで今の科学も魔法の研究も進んでいないからだ。

そういった魔法属性をもつ人も確認されていない。そのため、一般的に魔力を封じる薬とは、神経を一時的に麻痺らせる薬である。

しかし魔力を消す方法はある。消したい人物を殺せばいい。それが現代で言う『魔力を完全に封じる』だ。

それも考慮に入れると飲まされた薬は毒が入っているという可能性もある。


『毒!?』

『その可能性もあると言っただけだよ。大丈夫。さっきも言ったが、葵は人質だ』

『…人質』

『葵が帰ってこなかったら?(しん)はどうするか分からないが洸祈(こうき)なら軍を潰しにかからないとも言えない…いや、潰す』

『………』


と、葵は璃央(りおう)と話した。万が一に備え、半日は効果がある璃央特製の持続性解毒薬を飲んできた。どんな毒にでも効果があるわけでもないが、ある程度の毒には効くらしい。

そんなわけで拳銃がこの場に持ち込まれるはずないのだ。

「何で?」

「♪安全保証、安全保証」

葵は千里を無視だ。

「どうやって逃げる?」

「え~、堂々と帰ろうよ」

「無理だよ。モタモタしてたら俺らはバンと一発だ」

「二発でしょ」

「てか、もう頭上げて良くないか?不自然だろ…」

と、千里を見たら頭を上げていた。

「行くよ」

意地悪い笑みを浮かべて見下ろす。

千里!!!!!!

心の中で怒鳴りながら澄ました顔で頭を上げた。

一歩、二歩……

千里がドアノブに手をかけた。

後ろの幹部達の気配に気を配りながら千里の後ろにつく。

緊張で息をするのが怖い。

ガチャッ

前で扉を開ける千里の行動はいつもより早い気がした。

千里が出る。葵は開けたドアの前に立ち、幹部達に頭を下げた。

その時だった。


「あお!!!!!!」



千里が叫んだのと、葵が顔を上げたのは同時だった。

葵の目に映ったのは自らにむかって真っ直ぐに向けられた銃口。

撃たれる!!



視界がぐらりと傾き、衝撃が葵を襲う。



「ったたた」

千里ののんびりした声が聞こえる。倒れた葵の上には千里。

状況理解に5秒。

「おい、大丈夫か!?」

間一髪のところで千里が葵を突き飛ばしたようだ。

「うん。早く!!!!」

千里はすぐさま立ち上がると葵の腕を掴み、走り出そうとする。葵は千里に引っ張られながら、立ち上がった。

会議室内からは『何故撃ったのか』と怒鳴り声が漏れている。こうなったら千里もろとも葵を殺すしかないと考えるまで1秒とかからないだろう。


「堂々と帰るつもりだったのに」

「どうやって逃げる?」

「走って逃げる」

「走ってる!!!!」

二人は行きに通ってきたであろう道を戻っていた。

ジリリリリ

「何この音?」

「警報器だよ」

真紅カーペットの廊下を二人は駆け抜ける。

千里が角を曲がったので、葵も曲がると…

「った!」

千里の背中に衝突した。何だよと千里の背後から前を窺うと、

「おい………って、犬?」

「……だよね」

二人の前には犬がいた。それも、ロボットの犬。

ワン

「リアルだね」

「気持ち悪いくらいに」

犬は吠えた。全体はロボットなのに吠え声は妙にリアルだった。

「可愛いね」

千里がロボット犬に近づいて撫でる。

「それ大丈夫か?」

「何で?ほら、尻尾振ってるよ」

大丈夫なんじゃないの。そう言いたいらしい。

いかにも怪しいロボット犬と触れ合う千里から目を離して、顔を上げた。その時だった。

「……………………………千里。そいつは可愛い顔した悪魔らしい」

一人と一体の後ろからやって来るそれを見たのは。

「へっ?」

葵の意味ありげな言葉に千里は顔を上げ、葵を見た。前をただ見つめる葵を見て千里もそちらを見る。

「……………あ~。あれは可愛くないね」

何十もの武装した人型ロボットがこちらへ歩いてきていた。

千里との距離はおよそ2メートル。ロボットは片膝を床に突いて装備していた銃を構えた。

かちりと安全装置が一斉に外される。

……………。

「なぁ…逃げるぞ」

「はいはーい」

二人は回れ右をすると、目の前の角を曲がった。

角を曲がりきったとたん、パリンと不吉な音が鼓膜を打つ。

振り返ると二人が立っていた場所を真っ直ぐに行ったところにある窓ガラスが粉々に割れていた。

「銃弾の音したか?」

「しなかったー。サイレンサー付きだね。僕たち暗殺されちゃうね」

“暗殺”生々しい言葉だが、それを幹部達が望んでいるのは事実だ。

「そうだな。で、どうやって外出る?」

「このままだとあのオヂチャン達とばったりだね」

退路を塞がれた二人は会議室へと戻るしかない。

千里は呑気な声でロボット犬に話し掛ける。

「って、その犬連れてきたのか!?」

「うん。可愛いから」

「そいつ、あのロボット兵器を呼んだんだぞ!」

「え~」と千里は頬を膨らませる。が、ロボット犬を離す気配はない。

「あー、もう好きにしろ!!そんなことよりどうやって逃げる?」

「そんなことってあおが言い出したんでしょ。本当にもう」

「おい!」

先を走る千里に葵は怒鳴った。

この際、千里の発言の正当性は置いとく。

「では、ここから逃げましょ~?」

何て言うから見てみれば……

「分かってんのか?」

「何を?」

千里はいつも突拍子のないことを言う。間違ったことではないが。

「ここは58階だ!!!!」

窓を開け放つ千里の表情は満更でもないようだ。

「じゃあ、あおはあのオヂチャン達に捕まって…バン!」

千里は片手でロボット犬を抱え、もう片手で銃弾の形を作り、葵に向かって撃つ真似をした。

「冗談じゃない!」

あんな奴等に殺されるなんて真っ平御免だ。

「だけど…」

58階だぞ!

しかし聞く気なし。

「バイバイ!」

千里は素早く窓枠に足を掛けると夜空に向かって飛び出した。


「っ…………分かったよ!」


葵は続いて飛び出した。

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