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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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パーティーの悪魔(7)

陣を連鎖的に発動させてより広い範囲に、より強い効果を出す。

見事なぐらいあっさりしたゲームに洸祈(こうき)は面白くないといった顔をした。

「ま、いいか。目的は果たせたし」

侵入者は朝まで起きることはない。

「お小遣い程度は頂いてもいいだろ?」

同情する風もなく近くにいる人間から財布を抜き取った。が、

「少なっ」

これには同情して中身を抜き取らずに財布を持ち主の顔の上に投げ落とした。


「これ以上用はないしな。帰るか」

言って気付いたことがある。

「琉雨への土産が」

粉ミルク買わなきゃいけないんだった。

どこに売ってんだろう。

その時だった。

欠伸をしかけた洸祈の頬すれすれを銃弾が通ったのは。

「!」

全く気付かなかった。

洸祈は握っていた拳銃を背後に向けて撃つ。弾が切れるまで撃った所で後ろを見た。

「誰もいない」

飛んできた方向からして屋根の上にいるはずなのにそこに人はいなかった。

当たったのなら悲鳴か呻き声が聞こえるはずだ。


洸祈は久し振りの緊張を全身で感じていた。

そして弾の切れた拳銃とナイフを地面に捨てると、腰の刀を抜いた。

「陣発動後にやってきたのか、魔法陣に耐性があったか」

今の洸祈は魔法陣の代償がかなり響いていた。

先程の魔法陣は範囲内の全ての人間を強制的に眠らせる。その代償は視力に血に体力。

特に陣紙作成で払った血はかなり失っていた。

洸祈は貧血からくる視界の歪みに歯を食い縛り、敵に弱味を見せないよう力を振り絞って立つ。

「狙い撃ちでも何でもいいから姿見せろ。って言ったって姿出す馬鹿なんていないか」

すると誰もいなかったはずの屋根から体を起こす人影が現れた。

姿を見せてくれた。

有り得ない。

「危なかったぁ。流石の僕も不意討ちには腰を抜かしたよ」

服に付いた汚れを払う仕草をする。

洸祈は軽い口調の人影を睨んだ。たとえ、言葉の端々からやる気の無さが伝わってきても相手に気配を気付かせなかっただけの実力はあるはずだ。

「にしても、この口調はちぃみたいだな」

呟く。

「アハハ。聞こえてるよ。でも、面白いからこれでいいや」

呟きが聞こえていた。澄んだ声で洸祈を笑う。

でも、馬鹿は聞こえていなかったらしい。

半分を雲で隠された月からは薄暗い光しか届かない。

人影は長さからしてライフルを構える。相手のライフルと洸祈の刀。

遠距離戦では明らかに洸祈が不利。

ならばと洸祈は会場へ駆けた。二三発発砲してきたがそれはかなり後ろにとんでいた。

「下手だな」

急に下手になっていた。

洸祈が相手が発砲するまで気付かなかった人間なのに銃の腕は素人並み。頬を掠ったのは唯の偶然と思わせる。

遊んでいるのか?



洸祈はこんこんと眠っている侵入者を踏まないように会場に入った。先程の走りで呼吸が浅い。

「あ~、ぐらぐらする」

疼く頭を軽く叩くと会場を見回す。

目指すは屋上。大体把握している会場内の地図を思い浮かべ洸祈は直ぐに走った。


目的の人物は迎え撃つわけもなく、逃げるわけもなく屋根の縁にライフルで体を支えて座っていた。そいつの長い髪が風にのる。

洸祈は一応気配を殺して相手に近付き、刀を首筋に添えた。

「何用だ?」

相手は驚くこともなく命を洸祈に委ねられているのに動じることなく返した。

「お遊び。ん~、違うか…まぁ、そんなとこ」

似てる。

しかし、暗くて相手の骨格を感覚で認識するので精一杯だ。

「そんな理由で撃ってくんな」

ゆっくりと刃を首に近付けていく。

「酷いよ。僕みたいなか弱い子に」

相手は刀を一瞥すると視線を前に戻した。

「か弱いわけあるか」

貧血気味の頭に刺激を与えないよう声のボリュームを下げる。

「それにそんなんじゃ、脅しにならないよ。僕には君は人を決して殺さない人間だと感じるよ」

どうしてこんな奴に。

洸祈は言葉の不意討ちに一瞬たじろいだ。

どんなに相手を傷付けても決して殺さない。戦いでそれは弱点となる。

分かっているけど駄目だ。

殺せない。

「そんなに動揺してたら一瞬で立場が逆になるよ…ほらあれ」

あれ。それは正体不明な奴がライフル向けた先にいた。

「…レイラ!?」

紛れもない。

帰ったはずのレイラだった。



「洸祈さん、洸祈さん!」

何があったの?

怖いけど彼を置いて帰るなんてできなかった。

だって…友達だから。

レイラは足元で眠る侵入者達に身を縮みこませながらも洸祈の名を呼びながら懸命に進んで行った。



カチッ

よく知る音が奇妙なぐらい洸祈の耳に響く。

「おい!」

弾をセットするその音はレイラに向けられたライフルからだった。

止めなくては。

洸祈は刀を持たない手で相手の腕を掴もうとする。しかし、

「動かないで。君が掴んだら間違って撃っちゃうかも。あ、でも僕の腕下手だからいいんだっけ」

明らかに相手の口調で油断をしていた洸祈は唇を噛み締めた。

こいつを殺せば……

刀を掴む腕に力を込めて引けばいい。けれどもそれが出来ない。

躊躇している洸祈を見ると相手は遠慮なしに引き金を引いた。

硝煙の匂い。

「レイラ!!」

レイラが…

洸祈は刀で首を切ることなくレイラの身を案じて下に向かう。が、体の向きを変えた所で強い力に引かれた。

「一瞬で立場が逆になるって言ったでしょ?」

相手は刀を握る洸祈の右手を叩くと刀を落とさせた。全てが完全な不意討ち。

「このっ」

押し倒され、肩が固いコンクリートに打ち付けられた。

「形勢逆転だね」

馬乗りになったその男は洸祈の頬を撫でた。

背筋に走る悪寒。

「はなせっ、近付くな!この変態野郎!!!」

力任せに振り下ろそうとするが、体力をかなり消費してたため思うように力が入らない。

「ひどっ」

振り落とされることなく変態野郎は冗談のない洸祈の言葉に本気で傷付いたようだ。

しくしくと…

擬音語が。

「は・な・せ!!嘘泣きのオカマが!!!」

洸祈はこんな変態野郎よりもレイラが心配だった。比べるのも有り得ないか。

早くしないと万が一の時は手遅れになってしまう。手遅れかも…そんなことは考えたくない。



「洸祈さん!」

変態野郎と取っ組み合っているとレイラの声が遠くから聞こえた。


レイラの声が。


洸祈は茫然としながら横を向くと屋根へと昇る梯子からひょっこりと顔を出しているレイラがいる。

「レイラ?」

幽霊?幻聴?幻覚?

「えぇ」

レイラだ。

洸祈の体から一気に力が抜けた。

今までの状況は頭の隅に追いやられてレイラは無事だということで一杯になった。

「撃ったよな」

力なく目の前の変態を見た。絹のような細い髪が雲から顔を出した月の明かりに反射する。

「だって撃っても当たってないからね。ボクの腕下手だから」

変態はライフルを見せつけるように動かした。

何なんだこいつは。

半月から盛れる光は頼りない。

「それに」

「?」

ライフルを傍らに置くと着ていたシャツの胸ポケットから組紐を取り出して長い髪を首元で一つに纏めた。それを見計らったように月が下界を完全に照らす。

「それに、こうでもしないと洸は無理するから。洸の魔力は底無しだけど感覚器の体力は底無しじゃないよ」


「ちぃ」

その姿は洸祈が寮を去ったときと変わらなかった。

そう。彼は洸祈の親友、櫻千里(さくらせんり)だった。

「ちぃのせいで俺は無駄に体力を使ったんだ」

洸祈は呆れ半分の口調で言う。

「あれ?そうなの?」

千里はわざとらしい笑みを浮かべて返す。

「そうだよ!!」

自由になった手で彼を引き剥がした。

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