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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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パーティーの悪魔(5)

「協力ありがとうございます」

頭を下げた洸祈(こうき)を招待客は冷ややかな目で見る。

それを洸祈は無言で受け止めた。



私は何も出来ない。

感謝も

怒りも

軽蔑も

何一つ出来ない。


『走って』

そう言う彼の声は震えていて…

『大丈夫。僕がいるから』

そう言う彼の手は小さく握り込まれていて…

『僕は弱い。僕の拳は確かに届かない』

だけど…

『でも…助けることは出来るよ。何も出来ないから何もしないんじゃない。そんなの本当に弱い奴の言い訳だから。何も出来ない人間なんていない』

そう言う彼の表情は明るくて…

『足があるなら走ればいい。手があるなら掴めばいい。目があるなら見ればいい。口があるなら言えばいい。心があるなら助ければいい』

とても強かったんだ。




…―私は全部持ってるじゃない―…



「洸祈さん!」

「レイラ?」

「先程は有り難う御座いました」

レイラは深々とお辞儀をした。

「あのままだったら、もっと多くの人が怪我をしていました。いえ、死んでいたかもしれません」

だから、

「だから、有り難う御座いました」

「俺はアレックスです」

顔を上げたレイラの目には下を向く洸祈がいた。表情は前髪で見えないが、決して怒っているわけではない。洸祈なりの感謝だ。

「ワシからもお礼を…有り難う、お若いの」

頭を下げることでお辞儀の代わりにしたのはパーティーの主賓であり、銃で片足を撃たれたクリストヴァーン家当主だった。

「父さん!」

顔を近付けるジャニエルを鬱陶しそうに手で払うと、先程の痛みに耐えて浮き出た汗を服で拭った。

「私を助けてくれたのはキミだろう?」

「傷口を塞いだだけです。それも応急措置でしかない」

「充分だよ」

穏やかに微笑む。

「キミがいなかったらワシは死んでいたかもしれない」

いとおしそうに足に貼られた陣紙を撫でた。そして、有り難うと何度も呟く。

「ワシはキミにお礼をしたい」

「いえ、お礼なら先程」

「有り難うだけじゃ済まない。キミには命を助けられた」

洸祈は断ったが当主は頑としてお礼をすることを譲らなかった。

「なら、ここの修理費はそちらで賄って下さい」

洸祈は壊した通信機を思い出して言った。侵入者のせいにすればそれまでだが、それだと後味が悪い。

「当然だ」

当主は力強く頷いた。

「あと、何か用があれば東京の用心屋まで」

宣伝くらいはいいだろう。


陣と陣紙は洸祈の技術と魔力、そしてそのための代償さえあれば何回でも使える。少ない魔力で陣は広く、陣紙は狭い範囲で効果を発揮する。

相手の視力を奪う『空間幻影』では陣を描くために自らの血を使い、発動には視力を代償として払った。

一回使っただけでどうってことはないが、何回も使えば当然いつかはボロがでる。

陣と陣紙の組み合わせることで代償を払わずに使うことができる方法も確かにある。しかし、そのための陣の構成には時間と膨大な魔力がいるため実戦では使えない。


「では、いいですね」

洸祈はナプキンにまた自らの血を使って人数分の陣紙を作りながら言った。

「レイラ、あなたはこの中で一番大人です。あとのこと任せましたよ」

「えぇ。次は私があの少年になる番ね」

そう言うレイラの足は震えていたが力強かった。洸祈は陣紙を招待客に配ると、裏口の前に立った。

「先程言ったことはいいですね」

その場全員の表情が引き締まる。洸祈を遠回しに見ていたが今は生き延びることが重要。この場では強いだけじゃなく色々と便利な魔法が使える洸祈が頼りなのだ。

「行きますよ」

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