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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
32/139

お客様(2.5)

「来週イタリアに行くから留守を頼んだぞ。一応、司野(しの)に暇な時来てもらえるよう頼むけど」

ふと思い出して、読み掛けの本から視線を外すと、洸祈(こうき)は暖炉の前で踞る白兔を見た。

「イタリア!?ルー行ったことないです!」

琉雨(るう)は洸祈を見上げて「いーなー」を連呼する。

「あーそうか。言ってろ」

冷たく突き放されて琉雨は頬を膨らました。

「旦那様の意地悪」

小さく呟く。

洸祈はプイッと顔を背けた琉雨の背中をぼんやりと見詰めた。

思い出されるのは先ほどのレイラの言葉。

―お二方は信頼し合っている。お二人を見ていれば分かることでした―

信頼、か。

「琉雨」

「はひ?」

「土産、何がいい?」

「旦那様ぁ!」

琉雨が原型に戻って満面の笑みを浮かべた。喜怒哀楽の切り替えが激しい。

「ルーは旦那様が選ぶものなら何でも嬉しいですー!!」

「そうか、じゃあ大量の粉ミルクでも買ってきてやろう」

「粉ミルク?」

揺り椅子に座った洸祈の膝に琉雨がちょこんと正座した。首を傾げてきらきらした目で見上げる。

「ちびっこにはカルシウムが一番」

洸祈は意味ありげに手を琉雨の頭上でヒラヒラさせる。彼女は…

「はう!ルーはちびじゃな~い!!!!」

団欒の和んだ雰囲気を怒涛で一掃して、気を荒くしながらソファーの真ん中に飛び降りた。

だからこそ…

「はひ!っひゃあ!!!!……はうわー!」

と、ソファーのなだらかな起伏の上に降り立ったため、奇妙な悲鳴を上げてするすると滑り落ちていく。

「琉雨!」

ガタ、ドスッ

ポスッ。

「危ないだろ」

琉雨は手のひらに乗かっていた。それは、洸祈が椅子から立って伸ばした手の上だった。

「……旦那しゃまぁ」

突然のことに恐怖を感じて泣き崩れた琉雨は鼻声で洸祈を呼び、その懐に飛び込んだ。

余程怖かったのだろう。

琉雨は羽で飛ぶことが出来る。

だが、それができなかったのは予期せぬハプニングに体が硬直したためだ。

小さな琉雨にとってソファーから落ちるのは普通の人間にとって建物の2階から落ちるようなもの。

琉雨は洸祈の服が自らの涙で汚れるのを気にせずにただただ彼を呼び続ける。

「旦那様、旦那様、旦那様ぁ……」

そんな琉雨に洸祈はされるがままで天井を見上げる。淡いオレンジの光を醸し出す電球。

「ひっく…ぐすっ。う、う~。…………」

琉雨はようやく泣き止み手の甲で汚れた顔を拭った。

そして洸祈の濡れた服に気付いて「ごめんなさい」と繰り返す。

「………………」

洸祈は何も返さない。

「旦那様、怒りました?」

上を見るその顔からは表情は分からない。

「………しゃがんでいいか?」

「はひ?」

意味不明なことを訊く。

琉雨が答える前にがばっと洸祈はしゃがんだ。

危うく洸祈の腹と腿に潰されそうになるのをギリギリで脱け出す。

「ったぁ!!」

「ど、どうしたんですか?」

「本が」

震える声でそう言う洸祈の傍らにはさっきまで読んでいた一冊の本。

厚さ5センチ程あるその本の背表紙には琉雨がよく知る生まれ故郷、スウェーデン語で題名が書かれていた。

「黒魔法と代償」物騒な題名だが、今はどうでもいい。

「…ルーを助けたから」

立ち上がった瞬間、琉雨を助けるために本を放り投げ、運悪く自らの足にぶつけたのだ。我慢してようだが限界だったらしい。

「ルーを助けたから足が……」

琉雨が乾いた頬をまた涙で濡らした。

「琉雨に怪我がなくて良かったんだ」

自然と洸祈は笑みをこぼしていた。

そして、人差し指で琉雨の涙を拭う。

「旦那様っ………ルーがすぐに手当てしますからね」

「ほっといても治る」

「やーです!ぜ~ったい手当てしますっ!!!!」

まぁ、信頼し合っているのかな。


「今日の夕食、何がいいですかー?」

「鍋」

「はい、お鍋ですね。…って4日連続になっちゃいます!」

「訊いたのお前だろ。俺は鍋がいいんだ。じゃあ、お前が決めればいい」

「え~と、それじゃあ…おでんにしましょう?」

「それ、8日前から4日前まで連続で食べた」

「ルーはおでんがいいんです!」

「これじゃあ決まんないな」

「はひ!私達のいいと思わない料理にすればいつもと違います」

「ラーメン」

「そば」

「炭水化物多いな」

「ルー想像したら気持ち悪くなってきました」

「俺も」

「やっぱり、おでんにしましょー?」

「あーそうしようか」

「はいっ!」

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