帰路(5)
『お父様!』
『どうしたんだい?』
『ベナがね、ほら!』
『うわぁ、凄いね』
『今日の夕食のデザートに木苺のパイを作ってくれるって!』
『それは楽しみだ』
『ふふふ。お一つどうぞ』
『ありがとう』
『お兄様にも見せてこなくちゃ!』
『お休み中だったら?』
『我儘じゃないわ。お休み中だったら即退散します』
『その時は夕食でたっぷり味わって貰おうね』
『うん』
『うーん、美味しいっ』
『フローラ、付けてる。口の回りが赤いよ』
『あら、美味しくって気づかなかったわ。アレン、貴方もどうかしら?』
『あとでベナさんが下さるそうですから』
『食事は皆でしてこそ楽しいのに』
『だってさ、アレン。私の妹がご立腹だ』
『俺はただの騎士です』
『ただの?フローラの騎士、すなわち、皇女の騎士だよ?』
『リオ、アレン君はわきまえているよ。ただ、真面目なんだ』
『あら、アレンは真面目じゃないわ。よくボケるもの』
『フローラ様!僕は真面目ですよっ』
『いいじゃないか、アレン。私は騎士にはボケもあっていいと思うよ』
『ですわよね、お兄様』
『リオ様…フローラ様…』
『それにしてもアレン』
『何ですか?』
『気を抜くと直ぐそうなる。いっそ、紙に書いて貴方の部屋に貼らそうかしら』
『?』
『フローラ、それはいい考えだね。私は賛成だ』
『はい?』
『フローラ、中身を言ってあげないとアレン君が混乱しているよ』
『お父様は分かってないわ。混乱させるためにあえて言わないのよ』
『でも、フローラ。そろそろ言わないとアレンがネガティブモードに入るよ』
『あら!アレン?』
『俺は…その…』
『私の妹は苛めっこだな』
『お兄様だって』
『フローラ!リオ!アレン君に謝りなさい』
『ローレン様、俺がいけないんです。俺が何かを忘れているようだから』
『……ごめんね、アレン。だって約束したのに貴方が様を付けるから…』
『あ!すみません、フローラさ…フローラ』
『アレン。流石、私の親友』
『姫と騎士の禁断の恋物語、ここに開幕ってね』
『お兄様!』
『リオ様!』
『ははは、お父さんは大いに結構だと思うよ』
『お父様!』
『ローレン様!』
『初々しいね。二人が結婚したら、私はアレンの義兄だ。そして、アレンは私の義弟。愛するフローラの次に可愛がってあげるよ』
『リオ様!』
『あら?お父様、どうしましたの?』
『なぁに、楽しくてね』
『腹の捩れる程の面白さ。次のボケを期待してるよ、義弟』
『僕で遊ばないで下さいっ!』
『だって楽しいもの』
『Sに目覚めたのか、私の妹』
『アレンにだけ』
『いいなぁ。アレンだけ、フローラの特別をゲットか』
『お兄様はお兄様。お父様はお父様。私の特別よ』
『可愛いな、私の妹は』
『ありがとう、私の娘』
『ふふふ。どういたしまして。My dear brother.My dear father.そして…My dear knight.』
『はい。My dear princess.一生、貴女を護り続けます』




