帰路(4)
ぽたっ
かなりの血が流れた。
「あ~ぐらぐらする」
なんとか屋敷に入ったが、それまでに流した血がまるで代償のようだ。
否、
今この瞬間も代償を払い続けている。
自分の意志とは関係なしにガクッと力の抜けた膝のせいで洸祈は漆黒のカーペットに突っ伏した。
鼻を打つ。
「痛い」
まぁ、最近のストレスや疲れ、血の不足で熱くなっていた頭が覚醒したし…よしとしとこう。
これで鼻血がでたらよくないが、それはなさそうだ。
ただ痛いだけ。
「おら、動け」
脚に命令する。が、動かない。
一瞬だけ思案した洸祈はポケットから折り畳み式のサバイバルナイフを取り出した。刃渡り15センチくらいのちんけなもの。
「もういない主さん。屋敷を血で汚してすみませんね」
なんて思わなくもないけど…
ぐさり
洸祈は太股にナイフを刺した。手加減なしで刺し貫く。
「これくらいっ」
慣れっこなんだよ!
動く。
脚の筋肉が収縮した。
洸祈はばかでかい屋敷の中を調べる。
脚を引き摺りながら、血を流しながら。
そして、荒れ果てた部屋を見ながら考える。
…―なんでこんなにも必死なのだろうと―…
2日前、彼に初めて会った。
同日、彼は仲良くなりたいと言ってきた。
同日、彼と酒を酌み交わした。
同日、彼の中のカミサマに殺されかけた。
昨日、依頼を受けた。
同日、彼に依頼を話した。
同日、彼は話を受け止めた。
今日、ホテルに二人でバイクで行こうとした。
同日、彼が発熱しため、急きょ店に戻った。
同日、元父親が彼を無理矢理連れていこうとした。
同日、娘が真実を話した。
同日、彼は話を聴いてしまい、混乱して店から飛び出した。
同日、限界が来て元父親を張り倒し、依頼料を慰謝料代わりに真奈美さんに手渡した。
同日、彼を捜して病院に行き、加賀龍士に会った。
同日、湯田ばあちゃんさんに会い、ここにやってきた。
同日、結界の侵入に手を負傷し、歩く為に脚を貫いた。
今、彼を見付けようと部屋を1から回っている。
彼に出会って1日と21時間経った。
たったの45時間。
たったの2700分。
たったの162000秒。
たったの…
たったの…
どうしたんだよ…
崇弥洸祈。
お前はこんなにも誰かに必死になれる人間なのか?
傷付けたくないから
傷付きたくないから
…―洸クン、覚えておいて。ぼくは君を一生許さない―…
…―だから、殺さない。その罪を背負い続けるんだ―…
『罪滅ぼしとかなんとか言って、全部自分の為じゃない!』
あの人達と一緒
全然変わらない
全ては…
「自分の為…だよ」