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発端(4)

裏の倉庫に入っていたバイクは綺麗だった。

当たり前だけど……。



トラックが2メートル程先で横断。

「あ、死ぬ」

普通にかわして走らせつつ言ってみる。

「何言うてんのや!!!!!」

司野(しの)がヘルメットを被った頭を俺の背中に押し付け、腰に回していた手で腹を締め付けてきた。労働課監査部なだけにその威力は半端じゃない。

「やめろ!マジで死ぬぞ!!」

肘で目一杯押し返すと司野はやっとその手を緩めた。少しでも危険を回避しようと朝早くに出て良かった。交通量が少ない。

「いつ着くん?」

「ん~……あと1時間後位」

「1時間か…崇弥(たかや)ぁ、休憩せぇへん?店出てから一度も休憩してへんやろ?」

怖じ気づいてるな。

「別に」

前に集中しながら答える。そこで会話が途切れた。背中から司野の早くなっていく鼓動を感じる。ちょっと苛め過ぎたか。

俺には“まだ1時間”だが、司野には“もう1時間”なのだ。十数年振りに親だった人達と再開し、関係が壊れていなければ妹だったかもしれない人に会うのだ。

今の司野はどういう気持ちなのだろうか。

恐怖?

期待?

不安?

幸福?

嫉妬?

司野の鼓動が早くなる。早く、早く、早く、早く。

司野のヘルメットが背中にトンとぶつかり、腰を掴んでいた手が外れる。

…はぁ、はぁ、はぁ…

苦しそうな呼吸音。

「おい、司野!?」

司野は応えない。代わりに聞こえるのは荒い息遣いだけだ。

このままだと落ちかねない。

幸いにもコンビニが目に止まる。他者に迷惑にならない程度に速度を落として緩やかにカーブすると駐車場へ入った。

バイクを止めると司野が頬を背中に擦り合わせるように俺に凭れてきた。

「司野、大丈夫か?」

首だけ回して様子を見れば肩を上下させていた。

「…すまん…すまん…すまんな、崇弥」

胸を押さえて司野は途切れ途切れに謝る。

「別に急いでないのにお前の提案を却下した俺が悪い。お前のことちゃんと考えられなかった俺のせいだ」

「…………崇弥…気持ち悪い…吐きそうや」

ヘルメットを外してやると、司野は額を俺の胸に強く押し当ててきた。

「コンビニのトイレまで我慢しろ。立てるか?」

「立てる……」

ふらふらする司野の肩を支えてやり、コンビニ店員に変な目を向けられながらトイレに連れていってやった。司野は俺から離れると壁に凭れかかる。

「あとは大丈夫や」

「分かった。何か飲めるもん買っとく」


「帰るか?」

暖かい、否、暑い太陽の下、司野の顔は異常なほど白かった。蝉も茹だるような炎天下で司野の手はひんやりしていた。しかし、触った額は熱かった。

「大丈夫…や…」

「大丈夫って、その姿で言われてもだな」

大丈夫なわけがない。

コンクリートのストッパーに座った司野は買ってきたペットボトルの水を飲み干すと、その場に踞る。

「大丈夫…や…から…」

ホテルまで約1時間、店まで約40分。

体が弱くてよく入院していた…悪化する前に早く店に帰った方がいい。

「駄目だ。帰るぞ」

「でも!」

司野は困った顔をする。

「でも、じゃない!お前自身が一番分かってるだろ!?」

そんなんじゃ持たない。

「でも…」

司野は悲しそうな顔をする。

「連絡してあっちに来てもらおう。な?」

小さい司野を持ち上げるとバイクに乗せた。そして頭にヘルメットを被せてやる。

「ちゃんと掴めるか?」

「…………」

泣きそうな顔。

「ちょっとごめんな」

司野の腕を俺の腰に回させるとキーについていた紐で両手首を結んだ。

これなら落ちない。

「…駄目や」

何が?なんて訊かない。

「………汚してしまう」

「いいさ」

「でも…」

「でも、じゃないさ。お前自身が一番分かってるだろ?」

止められない。

止めちゃいけない。


落ちてしまうその前に









…………………―泣き止んで―

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