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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
134/139

旅行(11)

いざ本場となると…。

「上半身まではOKなんだけどな…」

浴衣を帯まで下ろしてこの状態。上半身裸、目を閉じて直立…。

「別に小さい時は一緒にお風呂入ってたし、昨日だってお風呂で着替える時ちらって見えたし、あいつだって俺の裸見たことあるし、だから……脱いでなんて言っても脱ぐはずないから俺が脱がせなきゃいけないし…………ってぇ!!俺達は男だぞ!!!!」

洸祈(こうき)は、自分が悩んでいたことに一種の自己嫌悪感を感じると、何にも考えないようにして衣服の全てをを脱がした。

露になる歌姫の体。

華奢な四肢。均整のとれた無駄のない体。

「怒るなよ。お前の痛みを消してやるから」


…―二之宮(にのみや)―…



洸祈はその手のひらに鉱石の尖端を滑らせた。

そして、決意を固めるように洸祈は握りこぶしを作ると開いて陣に手を突いた。

血が溝を伝う。

「解析」

洸祈の言葉と共に陣が白く光り、血は白い分子と化しては消えた。

「解析終了」

二之宮の声。平淡な彼の声。それは劇場で二之宮が演じた人形の声だった。

「構成」

光は白から青へ。

ここからが長い。洸祈は額から浮き出る汗を目に染み込ませながら、歯を喰いしばって魔力の急激な消費に堪える。

「構成終了」

やっとだ。しかしこれで終わりじゃない。次が山場だ。

「…こ…う…かん…」

頭ががんがんと鳴る。

四肢から力がなくなってくる。

吐き気がしてくる。

意識が遠退きかける。

駄目だ。

そう心の中で叫んで、どうにか正気を保つ。

30分は経っただろうか。

洸祈の中では魔力の消耗からくる症状よりも、残りの魔力の量を心配していた。

今、ここで魔力を失ったら二之宮の器官の幾つかの消滅の可能性がでる。勿論、その後に待つのは死だ。


死んでしまったら人間は生き返らない。


死んでしまったら人形は生き返らない。


死んでしまったら機械は生き返らない。


早く。早く。早く。早く。

早くしてくれ!


「…交換終了……通常起動します」


陣から光が失われた。

二之宮がゆっくりと洸祈を振り向く…

「だい…じょう…ぶか…?」

洸祈はその場に倒れた。




「……崇弥(たかや)…」

「…………あぁ…二之宮(にのみや)…」

布団に横たわった洸祈は、瞼を上げると隣で寝ながら洸祈の頭を撫でる二之宮の姿を見た。そして、腕を伸ばすと二之宮を抱き寄せた。

「よかったぁ」

洸祈は優しい声でそう囁く。

「ありがとう」

二之宮は撫でていた手を離すと洸祈を抱き締め返した。

「君のおかげ…ううん…皆のおかげで僕はかなり若返った気分だ」

浴衣の裾から手を偲ばせた二之宮は洸祈を直に抱き締める。洸祈は擽ったそうに体を捩りながらも同じことをして返す。

「でもね…」

「二之宮?」

二之宮の抑揚のない声。逆接を使われて洸祈は不安そうに二之宮を見る。

「勝手に僕の裸を見たね」

「………はぁ?」

「言っただろう?君の前で裸になるのは勘弁って」

二之宮のマジな顔。洸祈は怯む。思わず背中を反らすが二之宮の手が阻止する。

「だって…どうしようもなくなったらって」

「自分で脱ぐよ!」

そこかよ。

「なんで僕を起こさない!羞恥で一杯だ!」

「俺しか見てない。いいだろ、男同士別に」

……………………………………。

「それ本気?」

二之宮の真剣な目。地雷を踏んだと洸祈は察する。

逃げられないこの場で失態を犯してしまった。

「………本気」

後戻りはできず、洸祈は進むしかない会話をする。

「崇弥、脱がしてあげる」

まずい。

「50分間、僕の前で自分の裸体を晒しなよ。その後で、もう一度、同じ会話しようか」

二之宮は脱力している洸祈に馬乗りになる。冗談なんて何処にもない。

「二之宮、マジでごめん。二之宮はカンカンになるなって思った。でも、あの時はああするしかなかった。お前を助けたかった」

帯に指を掛ける二之宮。

「僕は、君に見られるのは勘弁って言ったんだ。いいか?君に、だ」

それは…

「ねぇ、崇弥…あのね…僕は…その…」

二之宮の金と紺。

どちらが本来の瞳の色なのか。

どちらも本来の瞳の色なのか。

思っても訊かなかった。

なんでだろう。

洸祈はぼんやりと考える。

きっと…知っているからだ。だから、訊く必要がなかった。

「どうやら僕は…君を―」

これは…

「駄目だ!」

叫んでた。

(ろう)にじゃない。

二之宮に叫んでた。

洸祈が瞑った瞳を開けると二之宮は…


酷く傷付いた顔をしていた。


「あ…二之宮……」

「ごめん。崇弥……僕は…最低な奴だ…ごめん」

二之宮は立ち上がる。すると隅まで行き、壁に背中を凭れた。

「二之宮…」

「僕は…いつの間にか二之宮蓮として、崇弥洸祈だけじゃない…清としても見てた。崇弥の優しさに浸かってたようだ」

二之宮は苦笑いをする。そして、俯いた。

「俺だって…二之宮だけじゃなくて狼としても…」

洸祈は浴衣の乱れを直すと二之宮に近付く。

そして…

そっと…

そっと囁く…

「…二之宮」

俯いた二之宮の頭に伸ばされた手は…



バチンッ



二之宮は洸祈の手を払った。

そして、背中を壁にずるずると擦ってその場に座り込む。

抱えた膝に顔を埋めて…

「…やめてよ…優し過ぎるんだよ、崇弥……僕は…君なしでは生きられなくなる…夕霧(ゆうぎり)のように…司野由宇麻(しのゆうま)のように…君なしでは生きられなくなる……君は夕霧と共に歩むことを選んだ。司野由宇麻は君の家族だ。じゃあ僕は?君に受け入れてもらえない僕は…生きられなくなってしまう。だから…もう…僕に優しくしないでよ…お願いだ。僕は死にたくないんだ」

二之宮は嗚咽を漏らす。

二之宮蓮…

狼…

「二之宮…ダメ…」

洸祈の声音の異常に二之宮の顔が上がり目が開かれた。

「た……か…や……?」

紅蓮の瞳は二之宮をじっと見詰める。

「二之宮…だから…」



…―コワレテ―…



洸祈は二之宮の首を締め上げた。二之宮の体が壁に押さえ付けられたまま擦り上がる。

「…な…に……をっ…」

「二之宮…ごめんね。俺のせいだ」

二之宮の足が洸祈の膝を蹴る。

二之宮の手が洸祈の手を外そうとする。

どれも無意味。

「清として君と接しなければ良かったね。拒絶してれば良かったね。ごめん。そのせいで…俺のせいで…二之宮蓮の中に愛が生まれちゃったね」

「…たかっ…やっ…」

二之宮の瞳が潤む。

酸欠を起こしかけている。

「あーあーあーあー。壊さなきゃいけない。俺は二之宮蓮を壊さなきゃいけなくなったよ」

唐突に洸祈の手が二之宮を放した。二之宮は重力に従って畳に落ちる。

「ぐっ…がはっ…ごほっ…」

畳の上で二之宮は首に手を添えて体を捩る。洸祈はそんな彼の前髪を掴んで畳に無理矢理座らせた。

「たか…ど…して…」

掠れた声で二之宮は洸祈をただただ見る。

「言ったじゃん。ね、二之宮蓮。いけない子だなぁ。あ、そっか。俺のせいだったね」

「だ…っごほっ…れだ…よ」

二之宮の問に洸祈は肩をすくませた。

「誰?俺は崇弥洸祈さ。そして、清。崇弥(しん)と崇弥(りん)との間に産まれた子供。確かな記憶を持たずに育ち、大罪を犯した。俺は家を出て館でただただ生きて、陽季(はるき)に連れ出される。月華鈴(げっかりん)で手伝いをし、俺はいつの間にか実家に帰っていた。多くの人に会い、のんびりと成長する。軍学校では軍の支配下で毎日部屋に籠っていた。卒業するまで、俺はただ生かされる。それが約束。否、脅し。色々あって学校を退学した俺は琉雨(るう)と契約する。ここからまた色々あって、俺は危険な仕事を政府から受け、親友が俺のもとにくる。悪魔も俺のもとにきた。そして、今…これが俺」

洸祈はクスクスと笑うと二之宮にこれまでにないくらいの激しいキスを強制した。

「んっ」

「…………ま、これが最期の接吻。二之宮蓮には壊れてもらうよ。愛なんて生んじゃいけなかったんだよ」


バイバイ、蓮。





『蓮お兄ちゃん…一人にしないで』

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