旅行(10)
僕はいつも過去に囚われる。洸祈に囚われる。
「ここは…」
何処だ…?
荒れ果てた高原。
何もない。
僕以外は…
見渡す限りの大地。
僕は一体何をしてたんだ?
何をしようとしてたんだ?
餓えも
痛みも
何も感じない。
死ねない恐怖。
「蓮」
「誰だ!」
僕以外には誰もいないはず…
「し……す…い…」
「蓮、久しぶりだね」
何で…
「何でお前が…!」
がらりと風景が変わる。
薬品の匂い。
灰色の天井。
冷たい誰かの手。
その手は頬を何度も撫でる。
「君は僕の最高傑作だ」
僕にとって呪いの言葉を言いながら、その人は執拗に撫でてくる。
「冷たい…よ」
背中が冷たい。
腕が重い。
脚が重い。
手首に鎖。
足首に鎖。
剥き出しの背中から岩の冷たさに震える。
「やめてよ」
撫でなくていいよ。
あなたの顔を見せて。
「蓮。もう少しの辛抱だよ」
また君か…紫水。
「あいつは…」
あいつって誰のこと?
なんで勝手に口が動くんだよ。
「あれはもういないよ。失敗だ」
いない?失敗?
誰がいない?何が失敗?
再び風景はがらりと変わる。
ここは館だ。
「あなたの名前は狼。獰猛なオオカミ」
違う。
僕は蓮だ。
「私は炎よ」
「…炎」
腕を引くな、炎。
僕は一人で歩けるんだから。
「この子は清。清いと書いて清」
清…君は…。
「よろしくね、清」
もう慣れた。
風景は変わる。
すると、視界が真紅に染まった。
唸る炎。
「火…火事だ…」
誰かの声。
鮮やかに燃えていく館。
ああ…懐かしい色。
彼の目もこんな色をしていた。
それに僕は手を伸ばすが、誰かに後ろから抱き上げられたために、届かずに終わる。
「この子だけが生き残ったんです………」
見知らぬ男に腕を引かれて、小さな個室に入れられた。そこには見知った人が二人。
「こんにちは、蓮君。君は二之宮蓮となるんだ。おいで、私達の息子」
おじさん。おばさん。
温かい。
「ほら、もっと可愛く泣きなさいよ。れーん君」
痛い。
やめて…
「や…めて…」
ああ…やめて。
「にー!」
茶髪の少女。
彼女はにこやかに笑う。
「こんにちは、崇弥洸祈」
早い。早いよ。
「清…会いたかった」
早い。早すぎる。
「蓮。おいで、僕のところに」
紫水。
「そう。偉い偉い」
紫水…。
「あれ?失敗作さ。近い内に処分するつもり」
紫水…?
「あーあれ。知らない男が、いい値で買ってくれたよ」
…………………………………。
「よく我慢できたね。蓮、ご褒美に何でもあげるから」
…………………………………。
「そうか、命が欲しいのか」
…………………………………。
「ほら、沢山あるから。一人ひとりから貰えばいいよ」
…………………………………。
「や、やめろ!蓮!!!!!!」
…………………………………。
荒れ果てた高原。
何もない。
僕以外は…
見渡す限りの大地。
僕は一体何をしてたんだ?
何をしようとしてたんだ?
餓えも
痛みも
何も感じない。
死ねない恐怖。
「二之宮、俺のをあげるよ」
いらない。
お願いだから…。
僕のそばにいてよ。
ただそれだけでいいから……。